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Bioavailability

経口固形製剤の製剤設計とバイオアベイラビリティ

はじめに

経口固形製剤は、錠剤、カプセル、顆粒剤などを含む形態で投与される医薬品であり、患者の服薬の容易さや安定性、製造の効率性などから広く採用されている。

経口固形製剤では、薬剤、すなわち有効成分(API)が体内で適切に放出され、十分な量が吸収される(=バイオアベイラビリティが確保される)ことが求められる。

本稿では、経口固形製剤の製剤設計とバイオアベイラビリティの観点からその基本概念と具体的な考慮点について、一緒に学んでいきたい。

目次
はじめに
経口固形製剤の製剤設計
APIの物性評価
賦形剤の選定
製剤技術の選択
製造工程と工程管理
バイオアベイラビリティの向上
溶出挙動の最適化
吸収特性の改善
IVIVCの確立
製剤設計とバイオアベイラビリティの連携
Quality by Design (QbD) のアプローチ
工程管理と最適化
経口固形製剤の製剤化における影響因子
バイオアベイラビリティへの影響因子
あとがき

経口固形製剤の製剤設計

APIの物性評価

医薬品の有効成分(Active Pharmaceutical Ingredient; API)である原薬(Drug Substance; DS)の物理的・化学的特性を調べることは、製剤設計のために不可欠である。この製剤設計に必要なデータを取得するための研究を、一般的にはプレフォーミュレーションと呼ぶ。

溶解性・分散性

経口固形製剤においては、胃腸管内で薬剤が放出され、体液中で溶解することが前提となる。APIの溶解性やpH依存性、さらには多形(ポリモルフィズム)などが、溶出特性に大きな影響を与える。

化学的・物理的安定性

製造過程や保管条件、消化管内での安定性も重要である。不適切な環境下での変性や分解は、最終的な治療効果に影響を与えるため、安定性に配慮した製剤設計が必要となる。


賦形剤の選定

賦形剤・結合剤

APIを均一に分散させ、一定の圧縮性や機械的強度(崩壊・破砕に対する抵抗性;錠剤硬度)を持たせるために使用する。

崩壊剤

錠剤やカプセルが体内で短時間に崩壊し、APIが迅速に放出されるようにするために使用する。崩壊速度は、溶出速度や最終的な吸収速度に直結する。

滑沢剤・流動化剤

打錠(圧縮)工程において、粉体が均一に流動し、打錠機への負担を軽減するために使用される。これにより、錠剤の安定的な製造性と再現性が確保される。


製剤技術の選択

  • 直接圧縮法
    • APIと賦形剤を直接圧縮して錠剤を製造する方法
    • 原料の物性が適していれば、シンプルかつ低コストで生産可能となる
  • 湿式造粒法
    • APIと添加剤をバインダー(結合剤)で造粒し、含量均一性、流動性と成形性に優れた打錠末を得る方法
    • 攪拌造粒法や流動層造粒が一般的に採用される
    • 溶出性や崩壊性を向上させるため均一な溶出が可能
  • 乾式造粒法
    • 湿気(水)に弱いAPIや反応性の高い成分に対して用いられる造粒方法
    • 高温や水分を避けて、打錠末を製造することができる

製造工程と工程管理

経口固形製剤として最も多用されている剤形である錠剤の場合は、打錠工程が特異的である。製造工程と工程管理の例として、錠剤の場合については下記のようになる。

  • 圧縮工程の最適化
    • 錠剤の硬度や崩壊時間が製剤特性に大きく影響する
    • 適切な圧縮力の設定や打錠速度などの調整が求められる
  • 工程内の品質管理
    • 各単位工程(混合、造粒、圧縮、コーティング)で工程パラメータを厳密に管理し、バッチ間のばらつきを最小限に抑えることが重要となる

バイオアベイラビリティの向上

バイオアベイラビリティとは、経口投与されたAPIが全身循環、すなわち血流に到達する割合を示す。

溶出挙動の最適化

  • 溶出試験
    • In Vitro評価法の溶出試験を通じて、錠剤やカプセルからAPIがどの程度、どの速度で放出されるかを評価する
    • これにより、体内での薬物動態を予測し、必要に応じて製剤処方や製造方法を改善する
  • 溶出性改善技術
    • APIが難溶性の場合、APIの微粉砕や固体分散、界面活性剤の添加などにより、溶解速度や溶解度を向上させ、製剤からのAPIの溶出性を改善する手法が採用される。

吸収特性の改善

  • 透過性
    • APIが消化管の上皮細胞を透過して血液中に吸収されるため、分子サイズ、親油性、電荷状態などが重要な役割を果たす
    • 必要に応じて、化学修飾や助剤の利用で、吸収効率を高める工夫がなされる
  • 初回通過効果の回避
    • 経口投与の場合、肝臓での初回通過代謝が大きく影響することがある
    • 製剤設計の段階で、代謝を回避する工夫(例えば、持続性製剤または放出部位制御型製剤の開発)も検討されることがある

IVIVCの確立

In Vitro–In Vivo Correlation(IVIVC)の確立とは、In Vitroでの溶出データとIn Vivo(体内)での血中濃度データとの間に相関関係を確立させることを指す。

このIVIVCの確立により、製剤設計の最適化や製造変更時の予測が可能になる。そして、製剤開発がより効率化され、規制当局との対応もスムーズになると期待される。


製剤設計とバイオアベイラビリティの連携

Quality by Design (QbD) のアプローチ

製剤設計の段階から、APIの特性、賦形剤の選定、製造工程の各パラメータが最終的なバイオアベイラビリティにどのように影響するかを科学的に評価しておくと良い。

品質評価からのフィードバックを組み込み、製剤の一貫性と性能向上を図るようにする。


工程管理と最適化

製造プロセス内の各工程で得られるデータをもとに、リアルタイムなプロセス制御や工程改善が行われ、最終的な製品の溶出挙動や安定性が確実に管理される。

これにより、臨床試験および市販後の製品でも安定したバイオアベイラビリティを実現できるようになる。


経口固形製剤の製剤化における影響因子

経口固形製剤の製剤化における影響因子を下表のようにまとめてみたので、参考にしてほしい。

原薬の物理化学特性
溶解性(溶解度、分配係数、pKa、結晶多形、粒子径)
安定性(温度・湿度、光、pH、溶媒和、添加物)
純度、水分、密度(比重)、流動性(安息角)、
静電気、光学異性体、その他
原薬の生物学的特性
薬理効果(作用部位、投与量、血中薬物濃度)
吸収・分布(吸収部位、吸収速度、タンパク結合)
代謝・排泄(生物学的半減期、初回通過効果、腸管循環、線形性)
副作用(血中薬物濃度)
患者の生理的要因
年齢、適応症
肝・腎機能
食事・水
精神状態
消化管の生理的特性
胃の形状・運動、低胃酸、内容物、胃通過速度
腸のpH、酵素、胆汁
医薬品添加物種類機能)および添加量
賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、流動化剤
安定化剤、徐放化剤、可溶化剤、カプセル殻
着色剤、矯味剤、フレーバー
医薬品添加物物理的性質
原薬との反応性(配合変化、安定性)
粒子径、密度(比重)、流動性(安息角)、水分
静電気、安定性
製剤特性評価
生物学的特性(吸収・排泄)
官能的特性(味、におい、色)
物理学的特性(大きさ、形状、溶出性、含量・含量均一性、
機械的強度、流動性、飛散性)
経時的安定性
異物混入、微生物汚染
製造工程
製造方法、単位操作、製造機器、製造条件、GMP
その他
包装形態、特許、市場性(ユーザーニーズ)、設備投資、
開発タイムライン、薬事規制、申請・認可

バイオアベイラビリティへの影響因子

上記の影響因子のうちバイオアベイラビリティへの潜在的な影響が考えられる因子をピックアップしてみた。是非、参考にしてほしい。

原薬の物理化学特性
溶解性(溶解度、分配係数、pKa、結晶多形、粒子径)、光学異性体
原薬の生物学的特性
吸収・分布(吸収部位、吸収速度、タンパク結合)
代謝・排泄(生物学的半減期、初回通過効果、腸管循環、線形性
患者の生理的要因
年齢、肝・腎機能、食事・水
消化管の生理的特性
胃の形状・運動、低胃酸、内容物、胃通過速度
腸のpH、酵素、胆汁
医薬品添加物種類機能)および添加量
溶出性に関連する添加剤(賦形剤、結合剤、崩壊剤)、徐放化剤
製剤特性評価
生物学的特性(吸収・排泄)
物理学的特性(大きさ、形状、溶出性)

あとがき

経口固形製剤の製剤設計は、APIの物性や安定性、溶出特性を最大限に生かすための製剤処方の最適化や製造工程の厳格な管理と密接に関連している。これらが適切に統合されることで、体内で効率的に吸収される高いバイオアベイラビリティが実現される。

バイオアベイラビリティの改善や向上には、ナノテクノロジーや固体分散体の利用が導入されることも多い。そのため、より高い精度と再現性、そして効率的な製造プロセスが確立される必要である。これらのアプローチは、最終的には患者に対して効果的で安全な治療を提供するための不可欠な要素となっている。


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