はじめに
吸入器は、気管支や肺に直接薬剤を届けるためのデバイスで、患者の状態や使用者の技術、目的に応じていくつかの種類がある。それぞれの吸入器には独自の利点と制約があり、最終的な選択は医師や薬剤師と十分な相談を通じて、患者自身のライフスタイルや治療目標に合わせて決定されることが重要となる。
患者の年齢や能力に合わせた吸入器の選択基準というものがある。例えば、小児や高齢者、重症状態の患者には、操作が容易なネブライザーやソフトミスト吸入器(SMI)が推奨される場合がある。
また、疾患の種類、例えば、気管支喘息、COPD、その他の気道疾患の特性に応じて、薬剤や投与方法が適応される。
さらには、吸入技術の習熟度によっても吸入器の選択が変わる場合がある。定量吸入器(MDI)は操作のタイミングが難しい場合があり、正しい使い方の指導や練習が必要とされる。一方、ドライパウダー吸入器(DPI)やSMIは、求められる呼吸力や動作が少なくて済むので、吸入のため操作が簡便になる傾向があると言われている。
本稿では、主要な吸入器の種類とその特徴を採りあげてみたい。
吸入器の種類
薬剤を気管支や肺に送達させるため使用するのが「吸入器」と呼ばれる器具であるが、この吸入器の種類には大別して以下の4種類が知られている。
ネブライザー
ネブライザー(Nebulizer)は、液体薬剤を超微細なエアロゾル(霧状の微粒子)に変換し、呼吸により吸入させる装置である。自動的に霧状にされるため、吸入のタイミングに苦労する人でも使用しやすいのが特徴である。
薬液を細かい霧状にすることができる吸入器であるため、薬剤を呼吸と一緒に気管や肺、鼻腔・副鼻腔へ送り込むことができる。薬液を細かい霧状にする方法としては、ジェット式、超音波式およびメッシュ式の3種類が知られている。
ネブライザーの長所は、普通の呼吸で吸入ができるので、乳幼児にも使用可能であることだ。また、確実に吸入できる点も優れている。さらに薬液量の調整が容易であるという長所がある。
そのため、使用対象は、高齢者、小児、呼吸困難の患者、操作が困難な患者に適しているとされる。
一方、ネブライザーは、吸入装置が一般的に大型であり,高価であるので一般家庭で使用するというよりは医療機関での使用がメインになる。専用の電源や装置が必要で、使用後の清掃やメンテナンスも手間に感じることがあるので、やはり医療機関での使用向けと言えそうだ。
さらに,使用するのに時間がかかる、使用できる薬剤の種類が限定される、電源のあるところでしか使用できないなどの短所がある。患者の中には騒音も気になる方がいるかも知れない。
まとめると、ネブライザーは吸入技術に依存せずに薬剤を届けられる一方、装置が大きく場所を取る点や治療時間が長くなることがあるということになるであろうか。
加圧噴霧式定量吸入器
加圧噴霧式定量吸入器(pMDI;pressurized Metered Dose Inhaler)は、プロペラント(推進剤)を利用して薬剤を霧状に噴出する吸入器である。
各噴射時に一定量の薬剤が放出されるため、正確な投与が可能である。ガスの圧力で薬剤を噴射させる吸入器であるため、吸入するときは、薬剤の噴射と薬剤を吸い込むタイミングを合わせなければならない。そのため、噴射と同時に深い吸気を行わなければならず、使用者の協調性が求められる。
pMDIで薬剤の噴射と薬剤を吸い込むタイミングを合わせることが難しい場合には、確実に吸入するための補助具としてスペーサーを使用できる。スパーサー(吸入補助器具)を併用するば、吸入時のタイミングの問題や口腔内、咽頭への薬剤の付着を低減することが可能となる。スペーサーには、マスクタイプとマウスピースタイプがある。
pMDIは、吸入器のボタンを指で押して操作するが、指の力が不十分な場合は十分に操作ができない。指の力が弱い患者用として作られた補助器具を使うと、弱い力でも楽に操作できるようになる。
このように、pMDIは持ち運びが容易で瞬時に作用する一方、正しい使い方を習得する必要がある。
上述のようなpMDIの弱点を改善した第二世代のpMDIも開発されているようである。
ドライパウダー定量吸入器
ドライパウダー定量吸入器(DPI;Dry Powder Inhaler)は、粉末薬剤を自分で吸い込むタイプの吸入器である。現在、多くのDPIが市販されている。
DPIは、液体からではなく、粉末状の薬剤を利用する吸入器であるため、呼気力を利用して薬剤を吸引し、肺へ届ける仕組みとなっている。
吸入時の自力による吸引力が必要なため、十分な吸気流が確保できる人に適しているとされる。
噴射ボタンを押す必要がなく、呼吸に合わせて自然に吸入できるため、協調性の面でpMDIよりも使いやすい場合がある。
正確な吸入姿勢と十分な呼吸力が条件となるが、使い方がシンプルなため日常使用に安心感があると言えよう。
DPIに分類される吸入器
タービュヘイラー(Turbuhaler) |
(主な製品)シムビコート、パルミコート、オーキシス |
ディスカス(Diskus) |
(主な製品)アドエア、フルタイド、セレベント |
ツイストヘーラー(Twisthaler) |
(主な製品)アズマネックス |
ブリーズヘイラー(Breezhaler) |
(主な製品) オンブレス、シーブリ、ウルティブロ、エナジア、アテキュラ |
ハンディヘラー(Handihaler) |
(主な製品)スピリーバ |
エリプタ(Ellipta) |
(主な製品)レルベア、アニュイティ、エンクラッセ、アノーロ |
ディスクヘラー(Diskhaler) |
(主な製品)フルタイド、セレベント、リレンザ |
スイングヘラー(Swinghaler) |
(主な製品)メプチン |
フレクサーラー(Flexhaler) |
(主な製品)調査中 |
ネオハラー(Neohaler) |
(主な製品)調査中 |
プレスエア(Pressair) |
(主な製品)調査中 |
ロタヘイラー(Rotahaler) |
(主な製品)調査中 |
レスティスクリック(RespiClick) |
(主な製品)調査中 |
ソフトミスト定量吸入器
ソフトミスト定量吸入器(SMI;Soft Mist Inhaler)は、噴射ガスを使わずに薬液をやわらかく細かい霧を生成し、かつ、ゆっくりと噴霧させることができる吸入器である。
機械式の操作によって、薬剤をより穏やかなミスト状に変換するデバイスである。薬剤の粒子速度が遅いため、気管支や肺末端まで効率的に届きやすい特長がある。
霧の動きが穏やかで、薬剤が口腔内に沈着せず、より多くの薬剤が肺に到達するので、吸入効率が高いデバイスである。
SMIは、操作性に優れている。つまり、pMDIよりも協調性は必要としないため、正しい使い方が簡単に習得できることが多い。
このように、SMIは利用者(患者)にとって使いやすく、高い肺到達率が期待できる。一方、デバイス自体のコストが高くなる場合がある。
SMIに分類される吸入器
レスピマット(Respimat) |
(主な製品)スピリーバ、スピオルト |
市販されている吸入器
様々な吸入器が市販されていますが(下図参照)、そのほとんどがDPIに分類される製品です。SMIに分類されるのは、現状ではレスピマットだけのようです。第二世代のpMDIを採用した医薬品は、国内ではまだ販売されていないようです(2021年3月7日)。

第二世代 pMDIに分類される吸入器
オートヘイラー(Autohaler);Breath-Actuated Inhaler(BAI) |
(主な製品)調査中 |
あとがき
最近ではデジタル技術を取り入れた吸入器(使用状況のモニタリングが可能なデジタルMDIなど)も登場しており、今後さらに最適な投与が可能になると期待されている。
このように吸入器の種類や機能の進歩といったデバイス技術自体は進化しているが、吸入器の清掃方法、使用時の注意点、さらには患者教育(啓蒙)など、幅広い要素が治療の効果向上に寄与するとされる。そのため、トータルでの取り組みを見直すことも大切であると思う。