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経鼻投与用デバイス(吸入器)の現状把握

経鼻投与で吸収させる薬剤

鼻粘膜を介して投与する薬剤には下記のようなものがある。

薬剤名主な適応症
カルシトニン骨粗鬆症
デスモブレシン酢酸塩水和物中枢性尿漏症
ブセレリン酢酸塩子宮内膜症、子宮筋腫
ナファレリン酢酸塩子宮内膜症、子宮筋腫
スマトリプタン片頭痛
コルチコステロイドアレルギー
ニコチン禁煙

点鼻剤とは

鼻腔又は鼻粘膜に適用する製剤 (Preparations for Nasal Application)を点鼻剤(Nasal Preparations)というが、日本薬局方/製剤総則には、点鼻剤について、次のような記載がある。

(1)点鼻剤は,鼻腔又は鼻粘膜に投与する製剤である.本剤は,点鼻液剤及び粉末点鼻剤に分類される.
(2)本剤は,必要に応じて,スプレーポンプなどの適切な噴霧用の器具を用いて噴霧吸入することができる.
(3)本剤のうち,噴霧量を調節した製剤は,別に規定するもののほか,適切な噴霧量の均一性を有する.

点鼻剤の種類

点鼻液剤粉末点鼻剤についてはそれぞれ下記のように記載されている。

点鼻液剤 Nasal Solutions
(1)点鼻液剤は,鼻腔に投与する液状,又は用時溶解若しくは用時懸濁して用いる固体の点鼻剤である.
(2)本剤を製するには,通例,有効成分をそのまま又は溶剤若しくはそのほかの適切な添加剤を加え,溶解又は懸濁し,必要に応じて,ろ過する.
(3)用時溶解又は用時懸濁して用いる本剤で,その名称に「点鼻用」の文字を冠するものには,適切な溶解液又は懸濁用液を添付することができる.
(4)本剤には,必要に応じて,可溶化剤,等張化剤又は,pH 調節剤などを加えることができる.また,懸濁剤の場合には,有効成分の均一な状態を得るために,必要に応じて,分散剤又は安定化剤などを加えることができる.
(5)本剤で多回投与容器に充てんするものは,必要に応じて,微生物の発育を阻止するに足りる量の適切な保存剤を加える.
(6)本剤に用いる容器は,通例,気密容器とする.
点鼻粉末剤 Nasal Dry Powder Inhalers
(1)点鼻粉末剤は,鼻腔に投与する微粉状の点鼻剤である.
(2)本剤を製するには,通例,有効成分を適度に微細な粒子とし,必要ならば適切な添加剤と混和し,均質とする.
(3)本剤に用いる容器は,通例,密閉容器とする.必要に応じて,防湿性を付与する.

点鼻用噴霧器具

既にお気づきかも知れないが、日本薬局方/製剤総則には点鼻用噴霧器具について、「本剤は、必要に応じて、スプレーポンプなどの適切な噴霧用の器具を用いて噴霧吸入することができる」と記載しているのみである。おそらく「スプレーポンプ」は、ネブライザー定量吸入器のことを指しているのではないか思う。

薬剤を吸い込んで鼻腔を覆っている薄い鼻粘膜から吸収させる場合は、薬剤を霧状の極めて細かな液滴にする必要がある。この目的のために使用される吸入器は、ネブライザーが主流のようである。現在のところ、肺への薬物送達を目的する吸入器のように種類は多くないのかも知れない。ネット検索ではほとんどヒットしなかった。もう少し時間をかけて調査したいと思う。

ネブライザーは、薬液を細かい霧状にすることができる装置で、薬剤を呼吸と一緒に気管や肺、又は鼻腔・副鼻腔へ送り込むことができる。したがって、ネブライザー点鼻液剤を投与するのに使用できる。

定量吸入器にはpMDIpressurized Metered Dose Inhaler;加圧噴霧式定量吸入器)とDPIDry Powder Inhaler;ドライパウダー定量吸入器)と呼ばれる2種類が知られている。

pMDIは、噴射ガスの圧力で薬剤を噴射させるタイプの吸入器であるので、点鼻液剤を投与するのに使用できるかも知れない。

一方、DPIは粉末薬剤を自分で吸い込むタイプの吸入器である。粉末製剤の吸入器であるので、点鼻粉末剤を投与するのに使用できる可能性がある。

しかしながら、pMDIDPIの多くは肺に薬剤を送達させるための吸入器として開発されており、これらの吸入器に吸入補助器具を装着しただけで鼻腔・副鼻腔への吸入器として使用できるかどうかは不明である。経鼻投与用吸入器は、現在のところ、肺への薬物送達を目的する吸入器のように種類は多くないのかも知れない。ネット検索でほとんどヒットしないことからそのように推察している。

そして何よりもこれらの吸入器は、局所(気管や肺、又は鼻腔・副鼻腔や鼻粘膜)への薬剤の送達を目的として開発されたものであるので、Nose-to-brainのための経鼻投与用デバイス(吸入器)ではない。


経鼻投与用デバイス(吸入器)の現状

現在のところNose-to-brainのための経鼻投与用デバイス(吸入器)はまだ市販されていないようである(2021年3月7日)。

しかしながら、Nose-to-brainのための経鼻投与システムは、現在活発に研究開発が進められている研究分野である。有効性の向上や副作用の改善のみならず、新規投与経路の確立のために経鼻からの投与を可能にするデバイスの開発とそれに適した製剤の開発が望まれている。

近い将来、素晴らしい経鼻投与用デバイスが臨床の場に登場してくることを期待している。