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DDS 製剤技術

胃内滞留型製剤のフィージビリティスタディ(Feasibility Study)

胃内滞留型製剤の必要性

Cipro XR錠(徐放錠)を開発した際、シプロフロキサシンの吸収部位が主として十二指腸であることから胃内で滞留させることも考えた。結局、胃内滞留型製剤の開発はCipro XR錠の開発タイムラインに間に合わず、かつ、胃内滞留型にせずとも尿路感染症治療に役立つ製剤に仕上がったので、バックアップ・オプションとして実施した胃内滞留型製剤のfeasibility studyは日の目をみることはなかったが、その検討の一部について記載する。

シプロフロキサシンでもみられたように、消化管の下部ではpHの上昇に伴い溶解度が低下したり、十二指腸が吸収部位のメインであったりする。さらに、消化管の下部では吸収有効面積が減少する、水分が減少する、吸収に飽和が見られるなどの理由で多くの医薬品化合物(薬物)で吸収性の低下が認められることが知られている。


胃内滞留型製剤のための開発コンセプト

通常の製剤では、小腸内の通過時間はほぼ一定のようであるので消化管移動時間の変動に最も影響するのは胃での滞留時間である。胃内での滞留時間を延長するシステムとしては、下記のようなコンセプトが提案され、製剤研究が実施されてきた。

  • 胃内浮遊性製剤
  • 胃内膨潤性製剤
  • 胃内付着性製剤

胃内浮遊性製剤は、比重の賦形剤やゲル形成高分子をベースに製剤設計された製剤で、胃内の内容物に浮遊させることで幽門の位置から遠ざけ、幽門からの排出されるのをできる限り回避させようとするアプローチである。


胃内膨潤性製剤は、服用後予め予定していた形状、特に幽門から排出されにくい大きさや形状に膨張させることで、胃内に長時間にわたり滞留させようとするアプローチである。


胃内付着性製剤は、胃粘膜のムチンに作用して付着する付着性高分子をベースに製剤設計して胃粘膜に付着させて胃内滞留時間を延長させようとするアプローチである。


いまでは少し恥ずかしい気持ちもあるが、私もバイエル社に勤務していた若い頃には真剣にこれらのアプローチに取り組んでいた時代がある。結果はと言うと、残念ながらこれらの胃内滞留型製剤はすべて生理的要因の障壁を突破できないものばかりであった。

生理的要因というのは、胃はhouse keeping作用と呼ばれる強収縮運動が1~2 時間毎に繰り返され、胃内容物が強制的に排出されてしまう。この生理現象の壁の前にはどのようなアプローチも太刀打ちできなかった。それ以外にも姿勢によって胃からの排出時間にばらつきが生じる。すなわち、立っているの場合と寝ている場合で胃内排出時間が異なる。さらには、食後投与においても胃内容物の種類や量によっても胃内排出時間が異なるので製剤で胃内排出時間をコントロールすることはできなかった。


私の新しいコンセプト: COSMOS

そこで、新たなアプローチとして考えたのは、上記のようなアプローチから発想を根本的に変えた全く新しいものである。そのアプローチというのは、空腹時投与においても食後投与と同じような薬物動態が得られるよう、すなわち食事(食餌)の影響を受けないよう薬物投与システムを開発することであった。

脂肪酸、特にミリスチン酸は胃内排出時間を延長させることが知られているので、この脂肪酸がミセル化しやすいように加工して、これと一緒に徐放化製剤を投与するというものである。

一種の配合剤のようなものである。したがって、お勧めの剤形は、Bull’s eye tablet又は二層錠となる。その製剤コンセプトを下図に示す。

© 2021 phrwiki.com

ミリスチン酸のような脂肪酸が胃内排出時間を延長させるメカニズムを下図のように図解してみた。

© 2021 phrwiki.com

このアプローチが実用化できるかどうかの検証前にCipro XR錠(徐放錠)の製剤開発が成功してしまったので、この検証実験(臨床試験)実施の優先順位が下がり製剤開発プロジェクトから基礎研究プロジェクトになった。そして、残念なことに翌年には研究所が閉鎖になったためにプロジェクト自体もなくなってしまった。したがって、このアプローチの検証はできていないが、私自身はその可能性を今日でも信じている。