はじめに
医薬品の製剤開発ではシクロデキストリン(CyD)を用いて薬物の包摂体を形成させて、薬物の水溶性向上や安定化を狙うことがある。そのCyD-薬物包摂体の真価を見極めるには、in vitro と in vivo の両面からその製剤特性を綿密に評価することが欠かせない。
代表的な in vitro 評価手法には以下のようなものがある。
- 溶解性・溶出試験
- 安定性試験
- 細胞毒性・バイオ相溶性
- 細胞取り込み・経皮透過性
- 放出挙動・シミュレート
一方、代表的な in vivo 評価手法には以下のようなものがある。
- 薬物動態学(PK)
- 組織分布(Biodistribution)
- 薬効試験・病態モデル
- 安全性・毒性評価
本稿では、CyD包摂体が持つ可能性を解き明かすために、評価指標と代表的な評価手法、実験デザインのポイントについて取り上げたいと思う。
<目次> はじめに 溶解性・溶出試験 安定性試験 細胞毒性・バイオ相溶性 細胞取り込み・経皮透過性 放出挙動・シミュレート 薬物動態学(PK) 組織分布(Biodistribution) 薬効試験・病態モデル 安全性・毒性評価 実験デザインと最適化のポイント あとがき |
溶解性・溶出試験
- 目的
- 包摂化による溶解度向上度合いを定量
- 手法
- 鏡面撹拌下での平衡溶解度測定
- USPバスケット/パドル法による溶出プロファイル
- 評価項目
- 平衡溶解度
- 例)水中で100倍向上
- 溶出率(%)
- 初期溶出速度(V₀)
- 溶出半分時間(T₅₀%)
- 平衡溶解度
安定性試験
- 目的
- 包摂体が化学的・物理的に安定かを検証
- 手法
- 加速条件(40 °C/75 %RH)
- 光照射ストレス
- 凍結融解サイクル後の残存率評価
- 分析法
- HPLC/UPLC
- DSC
- XRD
- FT-IR
細胞毒性・バイオ相溶性
- 目的
- キャリアそのもの(CyD+ゲスト複合体)が安全かを確認
- 手法
- MTTアッセイ
- LIVE/DEAD染色
- ラクトック酸脱水素酵素(LDH)漏出試験
- 細胞種例
- 細胞毒性(MTT)
- 例)IC₅₀ > 200 µM(安全域)
- Caco-2(経口吸収モデル)
- 例)Caco-2透過試験で、Pappが2.5倍に増大
- HepG2(肝代謝モデル)
- HUVEC(血管内皮モデル)
- 細胞毒性(MTT)
細胞取り込み・経皮透過性
- 目的
- 包摂体の細胞内移行やバリア通過特性を評価
- 手法
- フローサイトメトリー
- 共焦点顕微鏡イメージング
- 透過型イオン電気泳動装置(TEER)
- 指標
- 取り込み効率(%)
- 透過係数(Papp)
放出挙動・シミュレート
- 目的
- in vivo での放出挙動を予測
- 手法
- ダイナミックミーニング
- pHシミュレートバッファ(胃液 pH 1.2/腸液 pH 6.8)
- 評価
- モデルフィッティング(Higuchi、Korsmeyer–Peppasモデル)
薬物動態学(PK)
- 目的
- 血中濃度–時間曲線からバイオアベイラビリティを算出
- 手法
- 静脈内/経口投与後の血漿サンプリング(LC-MS/MSによる定量)
- 指標例
- Cmax(最高濃度)
- Tmax(最高到達時間)
- AUC(曲線下面積)
- 例)経口投与後(マウス)、AUCが4.2倍増加
- t₁/₂(半減期)
組織分布(Biodistribution)
- 目的
- 標的部位への集積性とオフターゲット分布を可視化
- 手法
- 蛍光/放射性ラベル付き包摂体投与後のイメージング
- 組織バイバイラジオグラフィ
- オプティカルイメージング
- 蛍光/放射性ラベル付き包摂体投与後のイメージング
- 評価
- 標的/非標的組織の濃度比
- 組織分布
- 例)マクロファージ集積部位での局所濃度最大2.8倍増
薬効試験・病態モデル
- 目的
- 包摂化による薬理活性の向上を検証
- 手法
- がんモデル(マウス腫瘍移植)
- 炎症モデル(ラット関節炎誘導)
- 神経疾患モデルなど
- エンドポイント
- 腫瘍体積抑制率
- 生理活性マーカー(炎症サイトカイン)
- 抗炎症モデル(ラット)
- 例)関節炎インデックスが30%抑制
- 抗炎症モデル(ラット)
- 行動評価
- 抗炎症モデル(ラット):関節炎インデックスが30%抑制
安全性・毒性評価
- 目的
- 長期投与における毒性プロファイルを把握
- 手法
- 反復投与毒性試験(14–28日)
- 血液生化学検査
- 組織病理学
- 指標
- 肝腎機能指標(ALT、AST、BUN、Cre)
- ヒストパソロジカルスコア
実験デザインと最適化のポイント
- 相関構築
- in vitro – in vivo 相関(IVIVC)モデルを導入
- サンプル数
- 統計的に有意差を得るために、事前検定でパワー分析
- 分析法バリデーション
- LC-MS/MS/HPLCの特異性の確認
- 直線性の確認
- 精度の確認
- 動物モデル選定
- ヒト相関性の高い種を適切に選択
- 品質管理
- 包摂率の定量管理
- 粒度の定量管理
- 残留溶媒の定量管理
あとがき
シクロデキストリン包摂体の in vitro / in vivo 評価は、溶解性改善から薬効・安全性に至るまで多角的な検証が求められる。
IVIVC を意識した実験設計と、高度な分析技術を組み合わせることで、包摂体の真のポテンシャルを引き出したものである。
そのために、IVIVC モデリングの実践(データ解析とアルゴリズム)やCyD包摂体の代謝・排泄経路の解析にも関心を持つ必要がありそうだ。また、臨床移行に向けたスケールアップとGMP/GLP対応といった、評価技術のより深い領域の学習と理解が求められる。
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【参考資料】
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