はじめに
医薬品の剤形の一つである錠剤の製造には、流動性が良く、圧縮成形性の良い打錠末(打錠機を用いる打錠工程に使用する打錠用の造粒末または混合物を指す)が必要となる。その理由は、錠剤の製造(特に生産)においては高速ロータリー型打錠機が使用されるのが一般的であり、高速で回転する回転盤に設置された臼への充填には流動性の良い打錠末でなければ重量偏差が大きくなってしまい、医薬品として品質を保証することができなくなるからである。
また、高速打錠であるため、圧縮時間が単発打錠機に比べて短くなるため、圧縮成形性の良い打錠末でなければ打錠障害を発生しやすくなるなど製造トラブルの発生リスクが高まるからである。
このような品質特性が求められている打錠末を製造するために錠剤の製造工程に造粒工程が存在する。
造粒工程で採用される造粒法に関する製剤技術には、大別すると次のような3つの方法が実用化されている。
- 湿式造粒法
- 基本的に水(精製水)を使用して粒子を凝集させる方法
- 水分が多いため乾燥工程が必要となる
- 製剤の品質特性を製剤設計しやすい製造法である
- 粒度分布の変動が少ないため、安定した製造が期待できる
- 乾式造粒法
- 水を使用せず、粉体を直接凝集させる方法
- 乾燥工程が不要で、製造コストを低く抑えることができる
- 一方、粒子分布がブロードになりやすいという欠点がある
- 湿式造粒法のように溶出性を改善したりはできない
- 溶媒造粒法
- 有機溶媒を使用して粒子を凝集させる方法
- 有機溶媒の選択が重要となる
- 溶媒の除去が必要で、製造コストが高くなる
- シャープな粒度分布の薬剤粒子が得られる
これらの造粒法は、使用する薬剤(原薬)の特性や医薬品に求められている要件に応じて選択される。尚、溶媒造粒法は一般的な製造方法ではないので、本稿では割愛する。
<目次> はじめに 打錠末に求められる品質特性 湿式顆粒圧縮法で用いる造粒法の種類 攪拌造粒法 流動層造粒法 転動攪拌流動層造粒法 乾式顆粒圧縮法で用いる造粒法 乾式顆粒圧縮法の長所と短所 打錠用末に含まれる微粉量の目安 あとがき |
打錠末に求められる品質特性
錠剤の製造用に供する打錠末に要求される品質特性は、次の3つの観点から考慮する必要がある。
- 流動性
- 打錠末が流動しやすいことが求められる
- 錠剤の成形時において錠剤質量の均一性が確保される
- 圧縮成形性
- 打錠末が圧縮成形されやすいことが必要
- 錠剤の強度を十分確保しないと一次包装(素錠の場合)や次工程のコーティング(フィルムコート錠の場合)で支障がでる
- 粒度分布
- 打錠末の粒度分布が適切であることが重要
- 打錠末の粒度分布の変動は、錠剤の溶解性や薬剤の放出特性に影響を及ばす場合が多い(特に難溶性薬剤の場合)
打錠用末は、通常、高速のロータリー型打錠機を用いて錠剤に圧縮成形されるので、流動性が良く、偏析を起こさずに均質なまま、短時間で臼へ充填されなければならない。
また、成形性が良い打錠用末であるためには打錠機の臼や杵に付着せずに、圧縮時に上杵から下杵への圧縮伝達が良好でなければならない。
さらには得られた錠剤において、重量偏差、含量均一性、硬度、崩壊性、溶出性、含量などの品質特性に問題がないことが求められている。
これらの錠剤の品質特性には打錠用末の品質特性(例えば、粒度・粒度分布、かさ密度、空隙率など)が大きく影響しているので、これらの品質特性を最適なものにするよう打錠用末を製造しなければならない。
打錠末には、直打法に用いる単に原料を混合しただけの打錠用末と、湿式顆粒圧縮法と乾式顆粒圧縮法で用いるような顆粒状の打錠用末がある。
また、特別な錠剤である湿製錠剤(圧縮工程が不要なため打錠機を使用しない製法で作られる錠剤)の製造の場合には、湿潤性を考慮する必要がある。その理由は、粒子の湿潤性が錠剤成形時の成形性あるいは粉末の凝集性に影響を与えるからである。湿製錠剤は、口腔内崩壊錠の製造など特別な場合に採用されるため、本稿では割愛する。
湿式顆粒圧縮法で用いる造粒法の種類
湿式顆粒圧縮法で用いる打錠用末の造粒法の特徴(長所と短所)を下記の表にまとめてみた。
攪拌造粒法
撹拌造粒とは、撹拌造粒装置を用いる造粒法を指す。撹拌造粒装置とは、粉体原料をベッセルと呼ばれる容器内で、高速回転する撹拌羽根によって混合撹拌しながら、バインダー(結合液/造粒液)を加え、粉体同士を付着凝集させる造粒装置である。粉体原料中に結合剤を含ませた場合は、結合液/造粒液は精製水のみであることが多い。乾燥は、別装置(流動層乾燥装置または棚式乾燥装置)で行う。
流動層造粒法
流動層造粒法とは、流動層造粒装置を用いる造粒法を指す。流動層造粒装置とは、粉体原料を円筒容器内で気流により浮遊懸濁させ、そこにバインダー(結合液/造粒液)を噴霧して粉体同士を付着凝集させて造粒させる製造装置である。通常、バッチプロセスにより混合から乾燥まで一台の装置で行うことができるスグレモノである。
転動攪拌流動層造粒法
転動攪拌流動層造粒法とは、転動攪拌流動層造粒装置を用いる造粒法を指す。転動攪拌流動層造粒装置とは、流動層装置の底部にブレードロータを搭載した造粒装置である。この装置を用いると従来困難であった流動性の悪い粉体も容易に流動化させることが可能となるスグレモノである。
また、この製造装置では、造粒、乾燥や粒子コーティングなどが実施可能である。造粒時はトップスプレー、そしてコーティング時は接線スプレーが選択可能である。
転動攪拌流動層造粒法は、造粒機の普及度が影響し、攪拌造粒法や流動層造粒法に比べて選らばれるケースが一般的に少ないように思う。しかし、私は個人的にこの造粒機が好みである。その理由は、この造粒機一台さえあれば、異なる物理的特性を有するあらゆる種類の粉体の造粒が可能であり、しかも微粒子コーティングも可能だからである。
乾式顆粒圧縮法で用いる造粒法
乾式顆粒圧縮法は、液体バインダーを用いないので、水分に弱い原薬(有効成分)適した製造法である。この乾式顆粒圧縮法で用いる打錠用末の造粒法には、主としてローラーコンパクターと呼ばれる乾式造粒機を用いる。
ローラーコンパクターは、定量フィーダー(スクリュー)によって、粉体原料を相対する二つのロール間に強制的に押し込み、ロール間で圧縮させて成形する造粒装置である。
粉体原料は板状(フレークまたはリボンと呼ばれます)に成形され、 破砕造粒装置(整粒装置)で整粒される。
ローラーコンパクターのタイプは3種類あり、2本の圧縮ローラーの配置と原料の移動方向が異なる。
米国Fitzpatrick社のローラーコンパクターは、2本の圧縮ローラーが水平(左右)に配置されて、原料がホッパーから直下の圧縮ローラーに対して垂直方向から供給されるタイプである。
ドイツ・Alexanderwerk社のローラーコンパクターは、2本の圧縮ローラーが垂直(上下)に配置されて、原料が水平方向から移動(水平フィーダー式)して圧縮ローラーに供給される。
スイス・Gerteis社のローラーコンパクターは、FitzpatrickタイプとAlexanderwerkタイプの中間のタイプというべきもので、2本の圧縮ローラーが45度に傾斜させた位置に配置されたものである。原料が水平方向から移動して圧縮ローラーに供給される水平フィーダー式を採用している。
粉体原料は板状のフレーク/リボンに成形され、 破砕造粒装置(整粒装置)で整粒された後、滑沢剤が添加され打錠末となる。
乾式顆粒圧縮法の長所と短所
ローラーコンパクターを用いた乾式造粒法は、造粒工程に水を使用しないので乾燥工程も必要ない。したがって、水分や熱に対して不安定な有効成分の打錠用末を製造するのに適している。
乾式造粒法の欠点は、結合剤溶液を使用していないので微粉量が湿式造粒法に比べて多いことである。この乾式造粒法で生じやすい微粉量を減らすにはローラーコンパクターで圧縮成形したフレークまたはリボンと呼ばれる板状の圧縮成形物の解砕方法や条件を検討しなければ、折角、強度のある圧縮成形物を製造しても「元の木阿弥」になってしまう。
ローラーコンパクターには、通常、ハンマーミル型の解砕機(整粒機)がセットされているが、圧縮成形物をこのミルで解砕すると微粉が生じやすい。この問題の解決法の一つとして、私はロールグラニュレーター(ロールミル型)を整粒機として使用を勧めたい。
打錠用末に含まれる微粉量の目安
以上、打錠用末の一般的な製造方法について述べたが、打錠用末の製品品質はロータリー型打錠機を用いて実際に打錠してみないと評価できない。
造粒工程でしっかりと造粒し、造粒されていない微粉(63 μm以下)の量はできるだけ少ない方がよいが、少なくしようとして全体の粒度が粗くなってはダメである(250 μm以下が望ましい)。微粉量の目安は、15%以下、望ましくは10%以下にしたいところである。しかしながら、微粉量が多くても打錠に支障がなければ問題ない。粒度はあくまでも目安である。
あとがき
打錠末の製造、すなわち造粒工程は錠剤の製造工程のなかで最も重要な工程である。この打錠末の製造がうまく製剤設計されていれば、錠剤の全製造工程を通じて製造トラブルに遭遇することはないと言っても過言ではない。
例えば、次のような事態を想像してみてほしい。製剤設計が未熟なため造粒工程で流動性が悪く、圧縮成形性も悪い。おまけに流動分布もブロードで、微粉も多い打錠末を打錠しなければならない場面を想像した場合、私には「絶望」以外の言葉が見つからない。
こんな打錠末を手にしたら、次工程である打錠工程では、打錠障害のオンパレードであろう。打錠技術(打錠条件の細かな設定)でカバーしようとしても、調整に時間を要するし、当然、打錠の収率も低下するであろう。
何とか規格に入るような錠剤を低収率で製造できたとしても質量偏差の大きな錠剤のコーティングは容易ではないはずである。その理由は、コーティング工程では質量偏差が拡大傾向にあるからだ。おまけに錠剤硬度の不十分な錠剤が混入していれば、コーティング途中で破壊され、その破片が他の錠剤の外観に影響を及ばす。製造担当者も工程管理者もお手上げではないか。おそらくこの製造バッチは品質試験でも不適格とされ、日の目を見ることなく、廃棄されることだろう。全くの悪夢でしかない!決して、実際の製造現場では引き起こしてはならないシーンである。
製剤研究技術者は、造粒工程を決して軽んじてはならない。むしろ造粒工程を100%成功させるために、製剤設計に集中すべきである。前述したとおり、造粒工程がうまくいけば、錠剤の製造は成功したと断言しても良いとすら私は思っている。
良質な打錠末を使用しても打錠工程でトラブルを生じさせた製造担当者がいたなら、彼/彼女はスタッフとしては未熟者との烙印を押されるかも知れない。そして、良質な錠剤を核錠に用いながらもコーティング工程でトラブルを発生させるようなスタッフも同様に熟練者の下で再トレーニングをしてもらいたい。
尚、この造粒工程が最重要工程ですよというストーリーは、一般的な錠剤の製造についての話である。多層錠や有核錠の製造においては、別のストーリーがある。多層錠や有核錠の品質は打錠工程の打錠技術に影響を受けることを念のために記しておきたい。