はじめに
核錠のセンターリング機能に優れた生産用有核打錠機を製造している機械メーカーは世界にそれほど多くは存在しない。有核打錠機自体が特殊であり、通常打錠機に比べれば引き合いも比べる必要がないくらいに少ないから当然である。
私がアダラートCR錠(有核錠)の製剤開発を通じて知ることができたのは、Killian社とKorsch社の二社だけである。この二社の有核打錠機に加え、後日、別のプロジェクトで知る機会ができたOSDrC technologyについて紹介したいと思う。有核打錠機に興味のある方は、是非、参考にしてみてください。
Kilian Press-coater
有核錠は古くから知られた剤形であり、有核錠を製造するための有核打錠機も古くから存在していた。しかしながら、Coat-Core Systemによる徐放錠であるアダラートCR錠(Adalat CR Tablets)を製剤開発しはじめていた当時は、内核錠のセンターからのズレを100%除外できる有核打錠機は存在しなかった。
バイエル社とドイツKilian社の共同研究によって生み出された生産用の有核打錠機が世に出たことによりアダラートCR錠も世に出ることが可能となった。Kilian社の有核打錠機は、その後も進化を続け、バイエル社のCoat-Core Systemによる徐放錠の生産を支え続けた。
現在、Killian社の有核打錠機は、高精度な有核錠剤の製造に特化している。この有核打錠機は、複数のパラメーターを厳密にコントロールすることで、一貫した品質の錠剤を生産することができる優れモノである。
Korsch Press-coater
Kilian社の有核打錠機と共に素晴らしい打錠機だと思い、個人的には導入してほしいと思っていた有核打錠機があった。それはドイツKorsch社が新規に開発した有核打錠機である。
開発当時はまだ生産スピードがKilian社の有核打錠機よりも劣っていたが、核錠のセンターリングについては100%の精度であった。特殊な杵(二重稼働杵構造)を採用しており、核錠の位置が常にセンターになるように工夫された打錠機であった。
アダラートCR錠の小型化を検討していた私もアダラートCR錠仕様のパーツを準備して試作テストをさせてもらった経験がある。試験結果も十分に満足できるものであっただけに最終的に導入に至らなかったのは残念でならない。
Korsch社は、有核打錠機の分野で長い歴史を持ち、多くの製薬会社に採用されている。Korsch社の有核打錠機は、高品質の有核錠を製造することができ、高い生産性と信頼性をユーザーに提供すると私は思っている。
OSDrC Press
時代は進み、現在では、日本を代表する打錠機メーカーである菊水製作所と当時三和化学研究所に勤務されていた尾関有一さんが共同で開発したOSDrC(One-Step Dry-Coating)Pressと称されるユニークな打錠機がある。
数々の技術賞を受賞して有名なのでご存じの方も多いと思う。この技術は、従来にはなかった有核打錠技術で、別途、核錠を製造することなく有核錠を製造できるという画期的なものである。
核錠部(核錠を使用していないので)のセンターリングの精度はもちろん言うまでもないことであるが、核錠部をペレット(ビーズ状顆粒)にすることも可能な打錠機であり、初めて拝見させてもらったときには驚いたものである。使いやすいインターフェースも印象的であった。
私はアダラートCR錠とは別の開発プロジェクトで試作検討をさせて頂いた経験があるが、本当に素晴らしい打錠機であると思った。ただ、当時の尾関さん曰く、OSDrC pressはモータースポーツに例えるならF1マシンのようなものだからF1レーサーに相当する技術者でないと操作できませんという言葉が今でも印象深く思い出される。
あれから随分と年月が過ぎ去っているので、今ではファミリーカーのように誰でも運転できるようになっているのであろうか。気になる有核打錠機であることには変わりはない。
あとがき
Killian社とKorsch社の有核打錠機は、購入して自社工場で使用できるが、OSDrC pressの場合は三和化学研究所の業務委託を締結することではじめて使用できるようになる。有核錠は特殊な剤形であるから、必ずしも自社工場に導入して製造する必要はないのかも知れない。そのあたりは生産数量とライフサイクル、そして製造コストの観点から判断すれば良いのではなかろうか。
Killian社とKorsch社の有核打錠機については、それぞれ異なる特徴と利点を持っているため、具体的なニーズや要件に応じて、最適な選択をすることが重要であろう。