はじめに
不快な味を持つ有効成分を口腔内崩壊錠にすることは容易ではなく、苦味マスキング技術が必要となる。苦味マスキング技術には大別して次のような方法が知られている。
- 官能的アプローチ
- 化学的アプローチ
- 物理的アプローチ
官能的アプローチというのは、具体的には矯味剤の添加などで苦味などの不快な味を緩和させる方法である。
化学的アプローチは、有効成分との複合体を形成させて苦味自体を感じなくさせる方法である。
物理的アプローチとして知られているものには、コーティング膜の形成やマトリックスによる溶出遅延などがある。
実際の口腔内崩壊錠の製剤開発において苦味マスキングが必要となった場合には、上記の苦味マスキング技術の一つあるいは組み合わせで製剤開発を進める。
矯味剤添加によるマスキング
矯味剤の添加によるマスキング技術は、甘味剤やフレーバーの味や香りで有効成分の不快な味を感じにくくさせる方法であり、官能的アプローチと呼ばれるものである。
この方法は、特殊な製造工程や製造装置が不要で比較的容易に実施可能な方法であるが、味が強く持続するような有効成分のマスキングには有効でないという弱点がある。
矯味剤として用いられる甘未剤には、スクラロースやタウマチンなどがある。
複合体形成によるマスキング
有効成分と複合体を形成させるマスキング技術は、口腔内で不溶性の複合体を形成させるか、または味蕾と呼ばれる舌にある味を検知する細胞への結合を阻害する方法で、化学的アプローチと呼ばれている。この方法は、複合体の結合力や消化管内での解離が重要となる。
コーティング膜によるマスキング
コーティング膜で被覆して、口腔内での有効成分の溶解・溶出を遅延させるマスキング技術は、物理的アプローチと呼ばれている。
コーティング装置の性能向上により原薬そのものをコーティングする、いわゆる「微粒子コーティング」も苦味マスキング技術の一つに数えられる。
コーティング膜を厚くすれば有効成分の味マスキングがより完全になるが、吸収遅延によるバイオアベイラビリティの低下というリスクが高くなる。味マスキングと薬物吸収のバランスをよく考えて最適なマスキングの度合を決定する必要がある。
マトリックスからの溶出遅延によるマスキング
水に溶けにくい高分子や油脂で構成されるマトリックス内に有効成分を分散させ、口腔内での有効成分の溶解・溶出を遅延させるマスキング技術は、物理的アプローチと呼ばれている。この方法では水溶性の高い有効成分又は苦味が強い有効成分に対してはマスキング効果が不十分が場合がある。
あとがき
口腔内崩壊錠は、口腔内で唾液によって崩壊し、高齢者や小児でも嚥下しやすくなるよう設計された錠剤である。そのため、通常錠剤以上に苦味や不快な味をマスキングする必要性が高いと言える。
一方で、口腔内崩壊錠は高含量の薬剤の製剤設計には不向きな剤形であることから、有効成分の含有量は通常錠剤に比べるとかなり低いのが一般的である。そのため、矯味剤の添加によるマスキング技術(官能的アプローチ)で十分なケースが多いのが実情である。
将来、高含量の口腔内崩壊錠の製剤開発が必要になった際には、口腔内崩壊錠自体の処方設計と共に苦味マスキング(有効成分が苦味や不快な味を有する場合)を考慮しなければならないので技術的レベルが数段高まる。実際にどのアプローチが良いかの判断は、有効成分の原薬特性によるところが大きい。おそらく単独でのアプローチでは不十分であり、複数のアプローチの組み合わせ(複合技術)が必要になるのではないかと予想する。
原薬のマイクロカプセル化なども視野に入れてもよいが、薬剤の溶出性の遅延が気になるところである。
とにかく、高含量製剤の場合、通常錠剤で製剤設計するのが常識であり、ライフサイクルマネジメントの一環として後から口腔内崩壊錠を開発するようなプランは避けるべきである。生物学的同等性を得るのは至難の技になるのが目に見えている。口腔内崩壊錠のニーズが高いならば、最初から口腔内崩壊錠として製剤開発すべきであろう。それができないようなら、口腔内崩壊錠の開発は諦めるべきで、その方が賢い戦略であると私は思う。
このように口腔内崩壊錠と苦味マスキング技術の組み合わせになれば、話は尽きない。話がつい長くなってしまう。製剤技術の観点からすれば、それほどに興味深い技術テーマである。