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製剤技術 高齢者用製剤

高齢化社会に対応する製剤の特徴って何ですか?; 口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム、経口ゼリー剤はその条件を満たしている!?

高齢化社会において製剤に求められるニーズとは

日本の課題の一つに高齢化社会が他の先進国よりも早いスピードでやってくるというのがある。もちろん個人差はあると思うが、一般に高齢者は嚥下能力も低下しており、なかには入れ歯をしているために噛み砕くのが苦手な人もいるとされている。

一方、他人事ではないが、高齢者は嚥下機能以外にも認知機能が低下していることもあり、薬の効果を確実に得るためには患者さんに適した剤形の選択が重要と言われている。

このような患者さん(自分自身も含めて)にも服用可能な製剤の開発ニーズはますます高まると推察される。高齢者が薬剤を服用する際の問題点として次のようなことが指摘されている。

  • 錠剤やカプセル剤が大きいと嚥下できない
  • 錠剤やカプセル剤がつかみにくい
  • 錠剤やカプセル剤をPTPシートから取り出せない、取り出すのに手間取る

では、「嚥下しやすくて、扱いやすい」適切なサイズの錠剤とはどれくらいの大きさなのでしょうか?

ある実地調査[1]の結論によると、飲み込みやすさと取り扱い性の両観点から虚弱高齢者の服薬に適した錠剤サイズは直径7~8mm円形錠であるという。

この実地調査において使用された錠剤サンプルは、直径が異なる 5 種(6、7、8、9、10 mm)の円形錠のみであり、楕円形錠は含まれていないが、私達が製剤設計の際に目標としてきた錠剤サイズと合致している。錠剤やカプセル剤の小型化は、製剤設計における古くて新しい技術的課題であると言える。


高齢者に請けいられる剤形とは

高齢の患者さんからのニーズを満たす(高齢者に受け入れられる)剤形としてどのようなものが考えられるでしょうか? 

高齢者でも服用しやすい剤形として登場しているものには次のようなものがある。

  • 口腔内崩壊錠
  • 口腔内崩壊フィルム
  • 経口ゼリー剤
  • ソフトカプセル

上記4種類の剤形は、いずれも嚥下しやいように製剤学的工夫を凝らした剤形である。

薬剤の服用に際しては、誤飲や誤嚥は避けなければならない。老化に伴い嚥下困難になる頻度も増えてくる。嚥下障害がある患者さんにおいては誤嚥性肺炎の危険度は上昇するとも言われている。利用可能であるならば、嚥下機能に左右されない剤形である貼付剤テープ剤)などへの変更も考えるべきであろう。


現在利用できる剤形

上述の4種類の剤形について、下記のように簡単に説明する。

口腔内崩壊錠

口腔内崩壊錠(Orally Disintegrating Tablets;OD錠)は、口腔内で溶解又は崩壊させて服用できる錠剤である(日本薬局方/製剤総則から抜粋)。

水がなくても口腔内で溶かして服用でき、高齢者などにもやさしい、すなわち嚥下しやすい錠剤とされている。

誤嚥を生じにくい製剤の特徴を「嫌な味や匂いがなく、固い塊でない」というふうに考えれば、口腔内崩壊錠が理想形の一つと言えるのかも知れない。

口腔内崩壊錠のなかには、苦味を感じないよう薬物粒子をコーティングするなど、より飲みやすくする製剤学工夫を凝らしているものもある。


口腔内崩壊フィルム

口腔内崩壊フィルム(Orally Disintegrating Films)は、口腔内で速やかに溶解または崩壊させて服用する経口フィルム剤である。

水溶性高分子とその他の添加剤からなるフィルムの基剤中に有効成分が含有されており、水を必要とせずに服用できる製剤である。嚥下困難あるいは水分摂取制限がある場合に有用な剤形である。


経口ゼリー剤

経口ゼリー剤(Jellies for Oral Application)は、経口投与する流動性のない成形したゲル状の製剤である。

適度な硬さと粘性を有しているため、水分誤嚥のある嚥下障害の患者などに対して用いられる。また、苦味マスキングを目的に甘味料などが添加されていて服用しやすい製剤である(日本薬局方/製剤総則から抜粋)。

水分誤嚥がある患者さんに対しての実際の服薬対応が「ゼリーやプリンに混ぜる」、「食事に混ぜる」、「オブラートに包む」などの処置であるならば、経口ゼリー剤も高齢者にやさしい、すなわち誤嚥しにくい剤形の理想形の一つと言える。


ソフトカプセル

ソフトカプセル(Soft Capsule)は、従来からよく知られている剤形であるが、サイズが十分に小さければ高齢者でも服用しやすい剤形ということで再認識されるかも知れない。


高齢者が取り出しやすいPTP包装とは

最後に、「取り出しやすいPTPシート」とはどんなものであるかについて考えてみることにする。

シート用フィルムの厚みが薄い場合、錠剤やカプセル剤を比較的弱い力でPTPシートから押し出すことができるが、一般的にそのようなPTPシートは防湿性が低いものである。

吸湿しやすい錠剤やカプセル剤の安定性を担保するためには、通常、硬質のプラスチック製PTPシートあるいは厚みのある高い防湿性のPTPシートが採用されるので、結果として錠剤やカプセル剤をPTPシートから取り出すのにより強い力が必要になり、取り出しにくくなる。

このような二律背反の課題を解決するために、超高防湿性のプラスチックシートを採用し、シートの厚みを薄くさせて、従来のPTPシートよりも弱い力で錠剤やカプセル剤を取り出すことができる包材が大成加工株式会社から提供されている。

このような高防湿性で、かつ、取り出し易いPTPシートは、一般的に錠剤硬度が低い口腔内崩壊錠(OD錠)の包装にも重宝するはずである。当該PTPシートとOD錠の組み合わせは、「高齢者に優しい製剤」の一つの形であると思う。


【参考文献】

[1] 三浦 宏子/苅安 誠(九州保健福祉大学)「錠剤の大きさが虚弱高齢者の服薬に与える影響/服薬模擬調査による検討」;日老医誌 2007;44:627 –  633