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基礎知識

そもそも「製剤設計」とか「製剤研究」とかって何?

製剤設計とは

医薬品製剤の剤形を選択し、製剤の処方、製造方法を設定する作業のことを「製剤設計」という。製剤設計によって投与形態(剤形)や製剤特性が決まるため、製剤設計は多くのプロセスから構成される医薬品開発の中でも特に重要な役割を担っている。

例えば、Drug Delivery System (DDS)の開発の場合、有効成分の治療効果を決定づける生体内作用部位への到達性や薬物動態特性は製剤設計によって決まるので、製剤設計の重要性は容易に理解できるかと思う。


製剤研究とは

製剤研究は、医薬品候補物質(有効成分)が特定されてから、市販製剤の開発までのほぼ全般をカバーしており、全体の医薬品開発スケジュールと並行して進行する。

製剤研究は、大別してプレフォーミュレーション研究(Preformulation)、製剤化研究(Formulation)および工業化研究(Process development)の3つにステージに分かれる。

大雑把に言ってしまえば、プレフォーミュレーション研究は、有効成分(原薬)の特性評価であり、製剤化研究は、製剤処方と製造法の設定、そして工業化研究は、生産スケールでの確認ということになる。もちろん、臨床試験のための治験薬製造やNDA(新薬承認申請)のための製剤設計の根拠を示すデータの取得も重要な業務である。


プレフォーミュレーション研究

第1ステージのプレフォーミュレーション研究は、製剤化研究の前段階に位置するが、ここでの研究目的は製剤設計に必要な基礎データの取得である。

例えば、有効成分の経口投与でのバイオアベイラビリティや薬物動態、原薬の物性(結晶多形、溶解度、溶解度へのpHの影響、粒子径、吸湿性、溶液状態と固形状態での安定性、圧縮力の安定性への影響など)に関するデータを取得する。


製剤化研究

第2ステージの製剤化研究では、プレフォーミュレーション研究で得られたデータを基に製剤設計を行う。具体的には、有効成分(原薬)の生物学的特性に基づいて適切な剤形を選択し、原薬の物理化学的特性に基づいて処方設計を行う。

処方設計の前には、原薬と添加剤の配合変化を検討し、安定性が担保できるような適切な添加剤を選択する。

そして、製剤設計に基づきプロトタイプを試作して、その品質特性(錠剤硬度、含量均一性、溶出性、安定性など)を評価する。

プロトタイプの評価データを基に候補処方を決定して、ラボスケールでの製造法及び製造条件の検討を行う。製造条件と品質特性の確認が済めば、治験薬(Phase I試験用)の製造準備(治験薬製造施設への技術移管やDocumentation workなど)に入る。

Phase I用治験薬の供給が完了すれば、次はPhase II用の治験薬供給に向けて製剤化研究を再開する。今度は市販候補製剤の製剤開発を見据えてより詳細な処方検討や製造方法・製造条件の検討を行う。その検討結果を基に安定なPhase II用治験薬の供給に貢献する。

臨床試験が順調に進み、PoCProof of Concept)が確認されたならば、市販候補製剤の製剤開発に進む。スケールアップしても問題がないような処方検討や製造方法・製造条件の検討を行う。

処方の最適化検討やスケールアップに必要なデータの取得を行う。例えば、重要品質特性(CQA)に影響を及ぼす重要物質特性(CMA)や重要プロセスパラメータ(CPP)を特定する。

以上で大まかな製剤化研究は終了である。


工業化研究

第3ステージの工業化研究では、製剤化研究で決定された市販候補製剤のスケールアップを行う。通常、2フェーズに分け、ラボスケールからパイロットスケールへのスケールアップが問題なく終了すれば、パイロットスケールから生産スケールへのスケールアップ検討に進む。

パイロットスケール又は生産スケールへのスケールアップが成功すれば、Phase III用治験薬の供給が可能となる。

開発部門での生産スケールへのスケールアップが成功すれば、生産部門への技術移管が行われ、そこでプロセスバリデーションが実施される。そしてプロセスバリデーションが成功すれば製造承認申請に必要な安定性データを取得するために安定性試験用サンプル(3バッチ)を製造する。

これで大まかな工業化研究は一通り完了となる。


おわりに

以上が教科書にも書いているような理想的な製剤研究の進め方であるが、実際の製剤開発では特に製剤化研究の進め方が製薬会社によってかなり違うように思う。理由は、各社ともできるだけ早くに医薬品を開発したいために戦略的に製剤化研究のプロセスをアジャストしているからである。その違いが製剤化研究の進め方の違いであり、結果として医薬品開発のスピードにも影響を与える。