はじめに
スパンスル型(Spansule)徐放製剤(Pellets-in-Capsule)のケーススタディとして、ペルサンチン- L カプセル(ジピリダモール徐放剤)を紹介する。
マルチプルユニット型徐放性製剤の開発
フィルムコーティング膜による徐放化技術は、マルチプルユニット型徐放性製剤を開発する上で不可欠な製剤技術となる。
マルチプルユニット型徐放性製剤は、シングルユニット型徐放性製剤(マトリックス型/モノリシック型徐放錠)に比べて表面積が大きくなるために、有効成分の吸収が消化管の運動等の影響を受けにくいという利点がある。
一般にマルチプルユニット型徐放性製剤(Pellets-in-Capsule)は、核粒子に薬物層(有効成分を含有)をレイヤーリング(層状に被覆)し、次いでこの表面を徐放化剤によりフィルムコーティング(被覆)したペレット(球状顆粒)を徐放顆粒とする。
レイヤーリングとフィルムコーティングには流動層造粒コーティング装置を製造機器として用いるのが一般的である。
必要に応じて別途、製造した即(速)放顆粒と混合した後、カプセル殻に充填して製造する。この即(速)放顆粒と徐放顆粒を一つのカプセル殻に充填して製造するのがスパンスル型(Spansule)徐放製剤(Pellets-in-Capsule)と呼ばれる製剤技術である。
剤形をカプセル剤でなく錠剤にしたい場合には、同様に製造した徐放顆粒を別途、製造した粉末部と混合し、打錠する。この打錠時に徐放顆粒の徐放化膜が破壊されて有効成分の溶出制御が困難になることが多いという問題があるので、粉末部にはクッション性のある(低い打錠圧縮力で十分な硬度が得られるような成形性の良い)添加剤を加えておく必要がある。このように錠剤として製造されるものが、スパスタブ型(Spacetabs)徐放製剤(Pellets-in-Tablet)と呼ばれる製剤技術である。
BA向上のための製剤学的工夫
核粒子に球形顆粒を用いる製法では、一般に結晶セルロースや白糖からなる核粒子を使用する場合が多いが、かつて市販されていたペルサンチン- L カプセル(ジピリダモールの徐放カプセル剤)の製造における核粒子には有機酸(酒石酸)の核粒子が用いられていた。
その理由は、ジピリダモールの溶解度はpH依存性であり、中性域ではほとんど溶解しないからである。核粒子に酒石酸を使用すると中性pH域でのジピリダモールの溶出性が改善され、バイオアベイラビリティ(BA)が向上する。
酒石酸の核粒子は、酒石酸の結晶を核にして、その周囲に別途、結晶を粉砕して製した酒石酸の粉末を「雪だるま」を作るような理屈で球状の核粒子に球形化していく。アラビアゴム水溶液が結合剤として使用されており、特別仕様のドラム式パンコーター又は遠心転動コーティング装置が製造装置として使用される。
安定性の問題を解決する方法
ジピリダモールは酒石酸と化学的に反応するため、製剤において両者が接触しないようにする必要がある。この安定性の問題を解決するために、球状の酒石酸の核粒子を水溶性ポリマーであるHPMCでコーティングして隔離層(シールコーティング)を施す。このように前処理した後に、ジピリダモール原薬をレイヤーリングする。
レイヤーリング終了後、さらに水溶性ポリマー(HPMC)でフィルムコーティングして(シールコーティング)、薬物含有ペレットの表面を滑らかにすると共に強度も高める。このプロセスを導入することでより球形状のペレットとなり、次工程である徐放性コーティングが実施しやすくなる。
徐放性コーティング
徐放性のコーティング基剤には腸溶性のメタクリル酸コポリマーS(Methacrylic acid copolymer S;pH7以上で溶解)とヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(Hydroxypropyl Methyl Cellulose Phthalate;HPMCP-55;pH5.5以上で溶解)を組み合わせて使用する。
これら2種類の腸溶性コーティング基剤の構成比及びコーティング量(被膜の厚み)を適宜調節して目標とするそれぞれ溶出速度の異なる2種類のペレット(速放顆粒と徐放顆粒)を製造する。
ペレットのフィルムコーティングには有機溶剤が使用可能なコーティング装置を使用する。メタクリル酸コポリマーSは、有機溶剤に溶解して使用するしか方法がないからである。
水系コーティングが可能なグレードの腸溶性コーティング剤であれば、一般仕様の流動層造粒コーティング装置(ボトムスプレー方式またはタンジェンシャル(接線)スプレー方式が望ましい)を使用することができる。
このようにして別々に製造した速放顆粒と徐放顆粒を混合後、カプセル殻に充填して徐放性カプセル剤(Pellets-in-Capsule)とする。以上が、ペルサンチン- L カプセルの大まかな製造方法である。
外観では分からないマルチプルユニット型製剤
当たり前のことで恐縮であるが、上記と同様のペレットを錠剤化(Pellets-in-Tablet)にした場合においてもマルチプルユニット型製剤であることには変わりはない。カプセル剤も錠剤も外観はシングルユニットであるが、内容物のペレット(顆粒)の特性(マルチプルユニット型)が重要である。
あとがき
スパンスル型(Spansule)徐放製剤(Pellets-in-Capsule)のケーススタディとして、ペルサンチン- L カプセル(ジピリダモール徐放剤)を紹介した。
フィルムコーティング膜による徐放化技術は、マルチプルユニット型の徐放製剤を開発する上で不可欠な製剤技術である。
私達が徐放製剤を開発する際、多くのケースでマルチプルユニット型とシングルユニット型(モノリシック型)のプロトタイプを有効性、安全性、利便性の観点から比較検討する。その上で有効成分にとって最適な剤形を決定し、最終候補製剤の製剤設計に繋げていく。