はじめに
日本薬局方/製剤総則によると、「顆粒剤を製造するには有効成分をそのまま、又は有効成分に賦形剤、結合剤、崩壊剤若しくはそのほかの適切な添加剤を加えて混和して均質にした後、適切な方法により造粒する。必要に応じて、剤皮を施すことができる。また、適切な方法により、徐放性顆粒剤又は腸溶性顆粒剤とすることもできる。製剤の粒度の試験を行うとき、 18 号(850 mm)ふるいを全量通過し、30 号(500 mm)ふるいに残留するものは全量の 10%以下であり、200 号(75 mm)ふるいを通過するものが全量の30%以下のものを、細粒剤と称することができる」とある。
顆粒剤又は細粒剤をコーティングする必要性は、局方/製剤総則にあるように徐放性又は腸溶性を付加させるためであるが、苦味マスキングのためにフィルムコーティングを施す場合もある。特に、散剤や原薬をフィルムコーティングする目的は、ほぼ苦味マスキングのためだと理解している。
錠剤のフィルムコーティングとは異なり、顆粒剤・細粒剤や散剤・原薬のフィルムコーティングはそれなりにノウハウやスキルが必要である。
錠剤の場合は、十分な大きさ・重量・硬度を有し、表面も滑らかであるため比較的容易にフィルムコーティングを施すことができる。使用するコーティング機も通常、通気型パンコーティング機で十分である。しかしながら、顆粒剤・細粒剤や散剤・原薬のフィルムコーティングを通気型パンコーティング機で行うことはできない。
顆粒剤・細粒剤のフィルムコーティング
錠剤に比べて顆粒剤や細粒剤のフィルムコーティングが難しいのは、コーティング基剤の種類や操作条件によって粒子同士が付着凝集しやすいからである。
流動層造粒コーティング装置を用いてもトップスプレー法では精度の高いコーティングができない。そこで、通常は、ワースターカラムを装着してボトムスプレー法でコーティングを行うことが多いと思う。
ボトムスプレー法を採用すれば、粒子直近でのコーティング液の噴霧が可能となり、ワースターカラムのおかげでスプレーゾーンと乾燥ゾーンを明確に分けることができ、効率の良い循環流を生み出すことができるからである。コーティングは、ワースターカラムの底部に装着されたスプレーガンから噴霧されるコーティング液ミストによって行われる。
個人的な好みで言えば、パウレック社の転動流動造粒コーティング装置 マルチプレックス(MP)が顆粒剤や細粒剤のコーティングに適しているように思う。この装置は、流動層装置の底部にブレードロータが搭載されているので顆粒剤や細粒剤をスリットからの吸気だけでなく機械的な転動により強制的に流動化させられる。したがって、粒子同士の付着凝集が起こりにくいような印象がある。そして、ここがポイントであるが、粒子の流動が旋回流となって底部に粒子が集中しているので、特殊なスプレーガン(低脈動接線スプレーノズル)を用いて接線スプレーができることである。
流動層造粒コーティング装置を用いてトップスプレー法で顆粒剤や細粒剤をコーティングした場合、粒子同士の付着凝集が起こりやすいと先述したが、その理由は粒子の動きの向きとスプレーガンから噴射されるコーティング液ミストの向きが逆であるので正面から衝突することになるからである。これを回避するためにボトムスプレー法が開発された経緯がある。
一方、接線スプレー法も粒子の動きと同じ方向にコーティング液ミストを噴霧させられる。しかもコーティングゾーンが常に流動層の中にあるのでコーティング液のロスが少ないというメリットもある。さらに接線スプレー法の利点は、ノズルの詰まりが生じた場合でも装置の運転を止めることなくスプレーガンにアクセスできる点である。私が一番気に入ってところでもある。
ボトムスプレー法では操作中にノズル不良が生じた場合は、装置を止め、コンテナー内の粒子もすべて回収しなければならない。スプレーガンのノズルが詰まりやすいようなコーティング基剤(例えば、オイドラギットなど)を使用する場合は重宝する。
もしコーティング基剤が有機溶剤にしか溶けないような場合には、フロイント産業社製の遠心転動流動装置(CFコーター)を用いて顆粒コーティングを行うという方法もある。
フロイント産業社の遠心転動造粒装置(CFコーター)では、装置に投入された核粒子は、回転円板から受ける遠心力と旋回力により、回転円板上で円弧を描きながらスパイラル運動(自転-公転運動)を起こしている。遠心転動している核粒子にバインダー(結合液)をスプレーしながら粉末を散布すると、核粒子表面に粉末が付着し、球形顆粒が得られる原理である。粉末をバインダー中に懸濁させてスプレーする方法もでき、粒子コーティングにも適している。
私はバイエル社に入社したばかりの頃(かなり昔ではあるが)、このCFコーターを使用させてもらったことがある。私自身は、有機溶剤を用いたコーティング製剤を直接担当したことが皆無なので、詳細なことは言えない。しかし、CFコーターも用いたコーティング工程には多くのプロセスパラメータがあり、製剤研究技術者の一人としては興味深い装置であるとの印象を今でも抱いている。
散剤・原薬のフィルムコーティング
散剤や原薬をコーティングする方法は、顆粒剤や細粒剤の比ではないほど困難である。理由は、粒子同士の付着凝集がさらに起きやすいからである。
マルチプレックス(MP)を用いてもかなり検討して操作条件を最適化しなければ満足のいく品質特性をもつ目的のコーティング品が得られない。
私自身は、微粒子コーティングの経験がほとんどないが、苦味マスキングなどに使用してみたい製造装置しては、パウレックス社の複合型流動層微粒子コーティイグ・造粒装置SFP (Super Fine Processor)がある。
SFPもMPのような旋回流動方式を採用しており、流動層高が低く抑えられているためコンテナ底部で流動する粒子に対するコーティング操作が接線スプレー法で効率的に行える。
MPと異なる点は、スクリーンとインペラによる解砕機構を備えている点である。この解砕機構によってコーティング時に発生する粒子同士の付着凝集を解砕し、単粒子に戻すことができるので細かな粒子表面にもコーティングができるわけである。
さらに、高圧低風量ノズル(N-LAVノズル)が装着されており、微粒子のコーティングで必要な粒子の流れを乱さないような工夫もされているようである。低風量でも液滴の小さいミストが作れるスプレーガンとは素晴らしいと思う。機会があれば、是非、使用してみたい興味深い製造装置の一つである。
あとがき
現役を離れてしまう最新の製剤機器についての情報も滞りがちである。製造機器メーカーの営業担当者との接触が全くなくなってしまうから、それは仕方がないことだと諦めるしかない。
私は、本ブログでは事実しか書いていないが、誤解を与えるような記事にしてはいけないので、ここで補足しておきたい。
フロイント産業社製の遠心転動造粒装置は、私が知っているCFコーターからGranurex®(グラニュレックス®)という名称の立派な製造装置に進化していた。そして、遠心転動造粒装置(Granurex)は、今では主に水系の造粒やコーティングに使用されることが多いようである。
フロイント産業社製の遠心転動造粒装置(Granurex®)は、私が知っているCFコーターからかなり進化しているようだ。30年以上も年月が経過しているから当然のことかも知れない。
そして有機溶剤を使用することができる医薬品製造所の数は現在では随分と少なくなってしまったから、CFコーターを所有する医薬品製造所もかなり少なくなっていることだろう。
そんな私が知る製薬業界とは別の分野、意外にも農業分野で遠心転動造粒装置(CFコーター)が使用されているようである。農業分野で一体、何の目的で使用されているのか、非常に興味深い!