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DDS 製剤技術

経口投与製剤の放出制御 Controlled Release (CR)

はじめに

この記事は、経口投与製剤の徐放制御Controlled Release; CR)のための製剤技術について理解を深め、徐放性製剤製剤設計する際のヒントを提供することを目的としている。

徐放性製剤についての基礎的な知識と技術について一緒に理解を深めたいと思う。徐放性製剤の製剤設計の具体的事例ケーススタディ)については別記事で紹介する。

目次
はじめに
経口投与製剤の放出制御の分類
放出制御技術の分類
ワックスマトリックス型
レジネート型
グラデュメット型
親水性ゲルマトリックス
スパンタブ型
ロンタブ型
エクステンタブ型
レペタブ型
OROS
スパスタブ型
スパンスル型
顆粒型
徐放性製剤を製剤設計するには・・・

経口投与製剤の放出制御の分類

日本薬局方/製剤総則による定義では、徐放性製剤は「投与回数の減少又は副作用の低減を図るなどの目的で、製剤からの有効成分の放出速度、放出時間、放出部位を調節した製剤であり、徐放性製剤を製造するには適切な徐放化剤を用いる」とされている。

このように経口投与用の放出制御製剤は、日本薬局方では「徐放性製剤」と一纏めに扱われているが、より理解を深めるために経口投与製剤の放出制御(Controlled Release; CR)を下図のように分類してみた。

経口投与製剤の放出制御は、次の三つに大別することができる。

  • (i)放出速度の制御(Rate-controlled Release)
  • (ii)放出開始時間の制御(Time-controlled Release)
  • (iii)放出部位の制御(Site-specific Release)

一方、USPでは、(i)放出速度の制御(Rate-controlled Release)は時間延長放出(Extended Release; ER)と呼ばれ、他の(ii)と(iii)はまとめて遅延放出(Delayed Release)と呼ばれている。そしてExtended ReleaseとDelayed ReleaseをまとめてModified Release (MR)に分類し、即放性錠剤(Immediate Release; IR)と区別している。

腸溶性製剤は、胃では溶出せずに小腸で溶出するよう設計された製剤であるから、Site-specific Release製剤であり、Delayed Release製剤に分類されるべきであるが、日本薬局方/製剤総則では「徐放性製剤」の区分ではない。

すなわち、狭義の「徐放性製剤」を放出速度が制御された製剤(Rate-controlled Release formulation)又は時間延長放出製剤(Extended Release formulation)と考えた方が目的とする徐放性製剤を製剤設計する上で実践的であると私は思う。


放出制御技術の分類

そこで経口固形製剤の開発において利用できる放出制御技術を下記の表のように分類してみた。剤形の観点から大きく分類すると「シングルユニット Single unit」と「マルチプルユニット Multiple unit」に分かれる。

一方、薬剤の放出機構の観点から分類すると「マトリックス型 Matrix type」と「 リザーバー型 Reservoir type」に分かれる。

シングルユニットでマトリックス型のものは、さらに剤形やマトリックス基剤の種類によってさらに細分化される。マルチプルユニットにはリザーバー型しかなく、剤形によってさらに分類される。

上述したそれぞれの放出制御技術を模式化して下表のようにまとめてみた。


ワックスマトリックス型

ワックスマトリックス型 (Wax matrix)は、有効成分を硬化油、セタノール、ステアリルアルコールなどの油脂性添加剤からなるマトリックス中に分散させた錠剤である。

製剤化の例として、ヘルベッサー錠(ジルチアゼム塩酸塩徐放錠)やMS コンチン錠(モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠)が知られている。


レジネート型

レジネート型 Resinate)は、イオン交換樹脂(レジンresin;樹脂)に有効成分をイオン結合させた錠剤である。

消化管液中で有効成分が解離し放出される仕組みになっている。すなわち、塩基性薬物では胃内で有効成分が多く遊離するが、小腸では遊離する量が少なくなる。

反対に、酸性薬物では胃内で有効成分が遊離せずに小腸では遊離する量が増大する。


グラデュメット型

グラデュメット型(Gradumet) は、多孔性の不溶性プラスチックマトリックスの格子間隙に有効成分を分散させた製剤で、消化液が格子間隙に浸入すると、有効成分が溶解、拡散によって徐々に放出される仕組みになっている。

例として、鉄欠乏性貧血治療に用いられる硫酸鉄製剤がある。


親水性ゲルマトリックス

親水性ゲルマトリックス(Hydrophilic matrix) は、水との接触により膨潤し、それにより保護ゲル層を作るような親水性高分子(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)やヒドロキシプロピルセルロース(HPC))からなるマトリックス中に有効成分を分散させている。

有効成分が水溶性の薬剤の場合には、有効成分が高分子ネットワークを介して拡散されて溶出する。

一方、有効成分が難溶性の薬剤の場合にはゲル層の浸食・溶解によって製剤から徐々にかつ継続的に放出される。今日では主たる徐放化技術の一つになっている。単一構造をしたマトリックス錠をモノリシック錠(Monolithic Tablets)と呼ぶこともある。

製剤化の例として、ミラペックスLA錠プラミペキソール徐放錠が知られています。

また、親水性マトリックス錠の中には有効成分の胃腸管内での吸収特性を考慮して溶出挙動を設計したアダラートCR錠ニフェジピン徐放錠のような有核錠の剤形を有するものもある。


スパンタブ型

スパンタブ型 (Spatabs)は、即(速)放性と徐放性の二層からなる多層錠である。

例として、Cipro XR錠シプロフロキサシン徐放錠がある。


ロンタブ型

ロンタブ型Lontabs)は、徐放性の内核錠を即(速)放性の外殻で囲った有核錠である。徐放化させたい有効成分の用量が少ない場合に適した剤形だと思う。


エクステンタブ型

エクステンタブ型(Extentabs) は、徐放錠を核錠にして、その錠剤表面に有効成分を含有するフィルムコーティングを施した剤形である。フィルムコーティング膜には即放性の薬剤を含有させ、徐放性の核錠には別の有効成分を含有させることができる。

例としては、Synjardy Tablets(エンパグリフロジンとメトホルミン徐放錠の配合剤)がある。


レペタブ型

レペタブ型(Repetabs) は、内核錠に腸溶性コーティングを施し、さらに速放性の外層は糖衣錠になっている。胃内で外層が溶け、腸で内核錠が溶けるよう製剤設計されているため薬効が持続する。風邪薬などの市販薬にも応用されている。


OROS

OROSOsmotic Release Oral System)は、米国ALZA社で開発された浸透圧を駆動力にして製剤内の薬剤を押し出せるような仕組みを持つ剤形である。

核錠は、有効成分を含む層と浸透圧により薬物含有層を押し出す層(プッシュ層)からなる二層錠である。この核錠を水に不溶性の高分子半透膜(酢酸セルロース) でコーティングして、さらに薬物含有層側の半透膜にドリルやレーザー光で放出孔delivery orificeを開けて製造する。

半透膜を介して水が核錠内部に浸透し、内部の薬物含有層を溶解 させると共にし、 プッシュ層を膨潤させる。そうするとプッシュ層は有効成分を含有する溶液を消化管内に押し出す。

OROSは、半透膜内外の浸透圧差がなくなるまでほぼ一定の放出速度で約24時間にわたり薬物の放出が持続するという画期的な機構である。機械的刺激による溶出への影響はないが、通常、服用から薬物放出までに1.5~2時間程度のラグタイムが生じるので定常状態になるまで数日から1週間程度の連続服用を要する。

例として、Adalat XL(ニフェジピン徐放錠)などが知られている。


スパスタブ型

スパスタブ型(Spacetabs) は、即(速)放性顆粒と複数の徐放性顆粒からなる錠剤である。消化管内で即(速)放性顆粒が溶解した後に徐放性顆粒から薬剤が徐々に放出される。

徐放性顆粒は、徐放性被膜を即放性顆粒表面にコーティングをして作る。徐放性被膜の組成や厚みで溶出速度をコントロールする。

徐放性顆粒が打錠時に打錠圧縮力で破壊されるのを抑制するためにクッションの役割を果たす成型性の良い添加剤(例えば、結晶セルロースなど)を加えて打錠する。

事例としては「テオドール錠(テオフィリン)」がある。


スパンスル型

スパンスル型(Spansule) は、即(速)放性顆粒と複数の徐放性顆粒あるいは胃溶性顆粒と腸溶性顆粒からなるカプセル剤である。

スパスタブ型徐放製剤とは基本的に同じコンセプトであるが、剤形だけが異なる。カプセル殻に充填することにより、打錠圧による徐放性顆粒の破壊のリスクが回避される。

カプセル殻が溶出速度に影響しない限り、徐放性顆粒の溶出挙動が変化するリスクはスパスタブ型に比べて小さい。

事例としてはペルサンチン-L カプセルジピリダモール徐放製剤がある。


顆粒型

顆粒型(Granules) は、スパスタブ型(錠剤)又はスパンスル型(カプセル剤)にはせずに即放性顆粒と複数の徐放性顆粒を混合して顆粒剤にしたものである。

打錠圧やカプセル殻の溶出速度への影響がないので、最も製剤設計が容易な剤形である。

事例としては「テオドール顆粒(テオフィリン)」がある。


徐放性製剤を製剤設計するには・・・

徐放製剤を開発するためには、目標とする適応症や製品特性を明確にした上で、有効成分の物性を把握し、それに適した製剤技術を活用することが重要であると考える(下図を参照)。

利用できる製剤技術がない場合には新たに開発する必要があり、製剤技術のイノベーションは常にハードルの高い課題を克服しようとする製剤研究技術者のチャレンジ精神と根気強い努力によって成し遂げられてきた成果であると私は思っている。

以上、経口投与徐放性製剤についての基礎的な知識と技術について記事を書かせて頂いた。実際の製剤開発の際のヒントとなるよういくつかの具体的事例ケーススタディ)については別記事で紹介している。そちらの記事もお読み頂ければ嬉しい。