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DDS 製剤技術

経口投与製剤用DDS技術;徐放化及びターゲティング

経口投与製剤におけるDDS(ドラッグデリバリーシステム)技術は、薬剤が口から摂取された後、胃腸内という多様な生体条件下でも効率よく作用部位へ届けられるように設計されています。中でも徐放化(Controlled Release; CR/ Sustained Release; SR)とターゲティングは、薬物の有効性、安全性、さらには服薬コンプライアンス向上に大きく寄与する重要な機能です。

尚、DDS(Drug Delivery System)と言った場合、有効成分が目標とする体内動態を示すように、あるいは有効成分が目標組織に集中的に到達するように製剤設計された投与形態(剤形)のことを指す場合があります。

徐放化(Controlled Release)の技術

目的とメリット

  • 一定の血中濃度の維持
    • 薬剤(有効成分)が一定速度で放出されることで、急激な血中濃度の変動を防ぎ、治療効果を持続させるとともに副作用のリスクを低減する
  • 服薬回数の削減
    • 長時間にわたり安定的に薬物が供給されるため、1日あたりの投与回数が減少し、患者の服薬負担が軽減される

主なアプローチ

  • マトリックス型システム
    • 薬剤を親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーのマトリックスに均一に分散させ、時間とともに薬剤が浸透と拡散、またはマトリックスの侵食によって放出されるようにした徐放化システムを指す
  • 膜被覆型システム
    • 多層構造やコーティング膜を施すことで、薬剤が所定の条件(例えば、特定のpHや酵素の存在下)に応じて放出されるよう設計する
  • オスモティックポンプ型 (OROS)
    • 内部にオスモティック剤を封入したタブレットやカプセルで、一定の膨張や押出力を利用して薬剤を押し出す仕組みを有する徐放化システムを指す
    • これにより、機械的に制御された放出が実現される

これらの技術は、製剤設計時にポリマーの選択、マトリックス内の薬剤分散状態、皮膜の組成やコーティング厚などを精密に調整し最適化することにより、予定された放出挙動を達成できます。

ターゲティング機能の実現

目的と意義

経口製剤におけるターゲティングは、薬剤が全身へ均一に吸収されるのではなく、特定の部位や細胞、さらには病巣レベルで高濃度に到達することを目指します。

これにより、局所的な効果の最大化、副作用の低減、そして治療効率の向上が期待されます。

ターゲティングのアプローチ

  • 局所ターゲティング(サイト特異的放出)
    • pH応答性コーティング
      • 消化管内でpHが変化する特性を利用し、胃・小腸・大腸などの特定の部位で溶解するポリマーコーティングを施すことで、その特定部位で薬剤が放出されるように製剤設計する
      • 例えば、炎症性腸疾患の治療では大腸での放出を狙うシステムが開発される
    • 時間依存性放出システム
      • 薬剤の放出開始までの時間を設計段階で決定させ、服用後ある程度の胃腸管内の移動時間を経て、狙った部位で薬剤が放出されるような製剤学工夫がなされている
  • 細胞レベルでのターゲティング
    • 特にナノ粒子やマイクロ粒子を利用したDDSでは、粒子表面にリガンド(例えば、糖鎖、抗体断片、ペプチドなど)を修飾し、腸管上皮細胞やM細胞、あるいは特定の受容体に対する親和性を向上させることが試みられている
    • こうした取り組みにより、薬剤が腸からの吸収を促進したり、場合によっては初回通過効果を回避し、目的の標的細胞へと効率的に輸送される可能性が期待できる
    • 特に、経口ペプチドや蛋白質製剤の吸収率改善に向けた研究が活発に続けられている

技術的課題と今後の展望

技術的課題

  • 消化管環境の多様性
    • 経口投与の場合、胃酸、消化酵素、腸の運動など多くのバリアが薬剤放出や吸収に影響を及ぼす
    • これらの条件下で、徐放とターゲティングが設計通りに機能するかどうかの十分な検証が必要である
  • 製剤の安定性と再現性
    • 複雑な構造のDDSは、製造工程や保存条件による品質のばらつきに敏感であり、量産時の再現性やスケールアップの検証が重要となる

今後の展望

近年は、新規ポリマーの原材料、微細加工技術、そしてコンピュータシミュレーションや機械学習を活用した製剤の最適化手法が急速に進展しいる。これらの技術の融合により、より高度な徐放化およびターゲティング機能を持つ経口型DDSが実用化されつつあります。

また、患者個々の生体内環境に合わせたパーソナライズドDDSの開発も期待され、個別医療の実現化に向け、治療効果のさらなる向上が見込まれています。

以上をまとめると、経口投与製剤用のDDS技術において、徐放化は薬剤を時間的にコントロールして持続的に放出し、安定した血中濃度を実現することで服薬頻度と副作用を軽減します。

一方、ターゲティングは薬剤が狙った部位に集中することによって治療効果を高め、不要な副作用を回避する役割を担います。

これらの技術は、胃腸内という複雑な環境下で如何に薬剤の放出と吸収を最適化するかという点で、薬学だけでなく、様々な材料科学、製剤工学、そして先端技術の融合によって進化している分野です。

製剤学的工夫によって有効成分の特性を最大限に生かそうとするDDS研究は、製剤開発のなかでも寝食を忘れるほど楽しいものです。このテーマでは、下記のような記事を掲載しているので、お読み頂ければ嬉しい。

CONTENTS

経口投与製剤のためのDDS技術

経口投与製剤の放出制御 Controlled Release (CR)
親水性ゲルマトリックス型徐放錠のケーススタディ:ミラペックスLA錠(プラミペキソール徐放錠)の製剤設計
親水性ゲルマトリックス型徐放錠のケーススタディ:アダラートCR錠(ニフェジピン徐放錠)の製剤設計
スパンタブ型(Spatabs)徐放錠(二層錠)のケーススタディ:シプロXR錠(シプロフロキサシン徐放錠)の製剤設計
スパンスル型(Spansule)徐放製剤(Pellets-in-Capsule)のケーススタディ:ペルサンチン-Lカプセル(ジピリダモール徐放剤)
胃内滞留型製剤のFeasibility Study
時限放出型製剤のFeasibility Study

非経口投与製剤(注射剤)のDDS技術

非経口投与製剤(注射剤)における徐放化技術
非経口投与製剤(注射剤)におけるターゲティング技術
核酸医薬用DDSとしてのナノキャリアパーティクル製剤