はじめに
親水性ゲルマトリックス型徐放錠の製剤開発のケーススタディとして、プラミペキソール塩酸塩水和物(pramipexsol hydrochloride haydrate)徐放錠の製剤設計のついて紹介する。
プラミペキソール徐放錠開発の目的
プラミペキソール塩酸塩水和物の徐放錠の製剤開発には多くの技術的課題を製剤学的工夫によって克服する必要があったようである。塩酸プラミペキソールの場合、溶解性が非常に高いために通常の徐放化技術では溶出速度の制御、溶出時間の延長・持続化が困難であったからである。しかしながら,最終的に徐放性製剤の開発は成功し、プラミペキソール徐放錠(ミラペックスLA錠;Mirapex LA Tablets)は、パーキンソン病の治療薬として臨床使用されている。
パーキンソン病は、中脳の黒質部分が変性し神経伝達物質であるドパミンが脳内で減少すること及びアセチルコリンが相対的に増加することによって発症する進行性の慢性神経変性疾患である。プラミペキソール塩酸塩水和物は、1985年にドイツ・ベーリンガーインゲルハイム社で開発された、非麦角系構造を有する選択的ドパミンD2受容体作動薬であり、パーキンソン病治療薬として使用されている薬剤である。
プラミペキソール速放錠(ビ・シフロール錠)も臨床使用されているが、速放錠では維持期(1.5~4.5 mg/日)に1日3回の分服が必要であり、長期服用では服薬アドヒアランスの低下が懸念されていた。服薬アドヒアランスの低下は、パーキンソン症状緩和の失敗や副作用の発現原因にもなることから絶対に避けなければならない。そこで患者の利便性を高め、服薬アドヒアランスを向上させるために服用回数を少なくすることができる徐放性製剤(徐放錠)の開発が強く要望されていた。
プロトタイプ開発と候補製剤のスクリーニング
速放錠1日3回投与の場合と同様の薬物血中濃度の推移を示す1日1回投与製剤を開発するために、バイオアベイラビリティ(BA)、最高-最低血中濃度変動(peak-trough fluctuation; PTF)およびバラツキのような重要パラメータに着目した。
徐放化原理および溶出挙動の異なる7種類のプロトタイプ処方(図1参照)を開発し、これらが1 日1 回投与製剤としての薬物動態を示すかどうかを相対的バイオアベイラビリティ試験(Phase I)で評価した。この製剤スクリーニング試験は、非盲検7 期クロスオーバー試験で実施されている。
次のような評価基準を設けて最適な製剤処方が選択された。
- 定常状態(投与後4日目の薬物血中濃度)での最高血中濃度(Cmax)が速放錠を1日3回投与した場合のそれを超えることがなく、かつ、最低血中濃度 (Cmin)が速放錠1日3回投与の場合のそれを下まわることがないこと。
- 24時間でのPTFが速放錠のそれよりも小さいか、少なくとも同等以下であること。
- 定常状態でのBAが速放錠の75%以上になること
- 不規則な薬物放出が認められないこと(投与後4時間以内での吸収率が80%を超えるようないわゆるdose-dumpingを引き起こさないこと)。
製剤評価の結果、目標とする薬物動態を得るには浸食性マトリックス錠である処方BおよびCが適しており(図2参照)、特にPTFに関しては処方C(溶出速度がやや遅いプロトタイプ)が優れていたので、このプロトタイプ処方が最終製剤の候補として選択された。
市販製剤(最終製剤処方)の最適化
プラミペキソール徐放錠では、3種類の機能性高分子(ヒプロメロース、カルボキシビニルポリマーおよびトウモロコシデンプン)で錠剤構造を浸食性マトリックスにし、これらの機能性高分子の配合量を適宜調節することで溶出速度を制御している(図3参照)。
プラミペキソール徐放錠の薬物放出機構は、拡散と浸食の両方によるものであり、in vitroでの薬物の放出速度は、時間の平方根に比例する。その溶出速度は、pH 4.5~7.5の範囲ではpH非依存性であり、pH 1ではわずかに速くなる。
主薬のプラミペキソール塩酸塩水和物は、水への溶解度が高いので、薬物放出機構は主として濃度勾配による拡散である。マトリックスの内部に侵入した胃腸管液で薬物が溶解されるので、その溶解した薬物が拡散により錠剤外に放出される。その一方で、マトリックスの浸食も寄与している。マトリックスは、胃腸管液に接触するとゲル化する。そのゲル層は、外側から順次浸食され、その際に薬物を直接、胃腸管内に放出する。
速放錠から徐放錠への切り替えを容易にすると共に、柔軟な用量調整と維持量の個別対応のために5種類の用量(原薬0.375, 0.75, 1.5, 3.0, 4.5 mgを含有)が同一の溶出挙動を示すように製剤設計された(図 4参照)。
プラミペキソール徐放錠の品質特性
プラミペキソール徐放錠は、機械的強度が十分に堅牢であるため、食餌の影響やdose dumpingが観察されていない。
1日1回の服用で24時間にわたり安定した血中濃度推移を示すので、患者さんの利便性や服薬アドヒアランスが向上するはずである。パーキンソン病治療の基本的姿勢は、病状の進行を遅らせ、患者さんのQOLを向上させることなので、この徐放錠は治療の選択肢になるはずである。
以上、比較的水に溶けやすく、かつ、pH依存性の溶解性を有する薬剤を親水性ゲルマトリックスにして徐放化する事例(ケーススタディ)として、プラミペキソール徐放錠の製剤設計を紹介させて頂いた。
【参考文献】
T. Friedl et al., “Development of a once daily formulation for Pramipexole”, in Proceedings of the 6th German-Scandinavian Meeting on Movement Disorders, Gothenburg, Sweden, 2009, Poster |
W. Eisenreich et al., “Pramipexole Extened Release: A Novel Treatment Option in Parkinson’s Disease”; Parkinson’s Disease, Volume 2010 |