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Bioavailability

経口投与での製剤化が技術的に困難な原薬特性とは?

はじめに

経口投与による薬剤吸収は、体内での溶解・分散とその後の粘膜透過が前提となるため、原薬(有効成分)の特性が製剤化の難易度に大きく影響する。

バイオアベイラビリティ(Bioavailability; BA)は、生物学的利用能とも呼ばれる。BAは、経口投与において投与された薬物量のうち消化管から吸収されて循環血流中にまで到達した薬物量の割合で表される指標である。

経口投与での製剤化が技術的に困難な原薬とは、言い換えればBAが非常に低い原薬である。本稿では、原薬特性とBAの関係について一緒に考えていきたい。

目次
はじめに
BAに影響を及ぼす原薬特性及び製剤特性
経口投与での製剤化が困難な原薬特性
難溶性
低透過性
BCS分類に基づく課題
胃腸管内での不安定性
高結晶性と多形
低融点・低流動性

あとがき

BAに影響を及ぼす原薬特性及び製剤特性

経口投与後の吸収過程での原薬特性による要因

  1. 消化管内容物中での原薬の溶解度
  2. 消化管管腔内での原薬の安定性
  3. 消化管で溶解状態にある原薬の透過性
    (消化管粘膜障壁透過効率)
  4. 吸収過程中小腸および肝臓における原薬の分解率
  5. 血行性とリンパ行性の振り分け率
    (2つの吸収経路がある場合)
経口投与後の吸収過程での製剤特性による要因
  1. 製剤の消化管内での放出特性
  2. 製剤の消化管内での移動特性
    (徐放製剤の製剤開発では特に重要な要因となる)

経口投与での製剤化が困難な原薬特性

  1. 膜透過性が低く、消化管から絶対吸収率が悪い
  2. 膜透過性は良いが、初回通過代謝のために絶対吸収率が悪い
  3. 溶解度が低く、十分な吸収性の確保が困難
  4. 消化管内での分解を受けやすい
  5. 化学的安定性が悪く、保存時の安定性確保が困難
  6. 投与量が多く、製造性に支障

上記の事項からBCS Class IV (溶解度が低く、吸収性も低い)の化合物がやはり製剤化しにくいと言える。

ファーストエフェクト(初回通過効果)を受ける化合物の製剤化も困難であると言える。

上記1のような原薬物性の場合には、吸収促進剤を用いての製剤化(生物学的アプローチ)が必要かも知れない。

また、上記2のような原薬物性の場合には、代謝阻害剤を用いての製剤化(生物学的アプローチ)の他に、プロドラッグとして設計するなどの化学的アプローチが必要になることも多い。

一方、製剤学的工夫によって3~6のような技術的課題は克服されてきた歴史がある。但し、製剤化が容易でないのは事実である。


難溶性

多くの新規原薬(有効成分)は、分子構造上、疎水性が高く水にほとんど溶けない(または溶解速度が極めて遅い)という難溶性を有するため、胃腸内での適切な溶解が得られない。

経口投与の場合、まず薬剤(有効成分)が十分に溶解しなければ吸収されにくく、結果として低いBAとなる。

このため、固体分散体化、粒子微粉化、またはナノテクノロジーを用いたアプローチによって溶解性向上を図る必要がある。


低透過性

原薬(有効成分)の分子自体が粘膜透過性に乏しい場合、薬効を十分に発揮できない。これは経口製剤では特に問題となる。その理由は、製剤学的工夫により解決できる課題ではないからだ。


BCS分類に基づく課題

国際的には原薬の特性は、Biopharmaceutical Classification System(BCS)によって分類され、BCS Class II(低水溶性・高透過性)やClass IV(低水溶性・低透過性)の原薬は特に経口投与時の製剤化が難しいとされている。

これらのクラスに該当する原薬は、溶解性向上や透過性改善のための特殊な製剤技術(例えば、自己乳化製剤、固体分散体、ナノ粒子化など)が必要となる。


胃腸管内での不安定性

原薬(有効成分)が胃腸管内での酸や消化酵素によって容易に分解される場合、薬効を十分に発揮することはできない。

腸溶性コーティングを施して対応できる場合もあるが、このような原薬特性を有する全ての原薬に対して有効であるとは限らないという問題がある。


高結晶性と多形

原薬が異なる結晶形(ポリモルファー;多形)を持つと、エネルギー的に安定な固体状態となり、溶解性が低下する傾向にある。

また、異なる結晶形(多形)が存在する場合、製剤過程で晶型変換が起こると、製品の溶解挙動や安定性が大きく変動し、一貫性のある製品設計が難しくなる。

これに対応するためには、製剤設計の際にポリモルフィズム(多形)の管理や工程中の温度・湿度管理が不可欠となる。


低融点・低流動性

一部の原薬は融点が非常に低く、錠剤として製剤開発する場合に造粒工程や打錠工程で問題となる場合がある。熱分解のリスクもあるため、これらの製剤工程においては低温での造粒技術や粒子化技術が求められる。

また、微粉化された場合の粉体の流動性は一般的に非常に悪い。均一な分散性を確保や商用生産スケールでの再現性に影響を及ぼすこともあるため、注意が必要となる。


製剤技術による対応策

上述のような技術的な課題に対して、現代の製剤技術では以下のような手法が検討・実用化されている。

  • 微細加工技術/ナノ粒子生成技術
    • 粒子サイズを非常に微細化することで表面積を増大させ、溶解速度を向上させる狙いがある
    • 例えば、超臨界流体を用いた微細加工技術により、均一な粒子生成や粒子表面の改質が試みられている
  • 固体分散体(Solid Dispersion)
    • 原薬を親水性ポリマーなどに分散させることで、アモルファス状態(非晶質化の状態)を安定化させ、溶解性を大幅に改善する方法

あとがき

経口投与で製剤化が技術的に困難な原薬(有効成分)は、主に低溶解性、低透過性、不安定性、複数の結晶形(多形)や低融点などの問題を抱えている。

これらの原薬特性が、体内で十分な吸収を得る妨げとなり、結果として薬効の実現に難渋する原因となっている。

製剤開発において、これらの技術的な課題を克服するための微細加工技術、固体分散技術、包摂化合化技術など最先端技術の応用が求められ、継続的な研究が進められている。製剤技術研究者にとってはワクワクするテーマであることに相違はない。


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