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クリームやゲルなど半固形製剤のための製造技術は?

はじめに

クリームやゲルなどの半固形製剤は、外用薬や経皮投与用製品として広く使用されている。クリームやゲルなどの半固形製剤は、原料の選定、精密な混合・均質化プロセス、そして充填工程といった各段階で高度な技術が要求される。

その理由は、これらの剤形に使用される製造技術は、製品の安全性、使用感、薬効など、製品の総合的な性能に直結するからである。さらに、連続製造やプロセス自動化の導入は、今後の製造技術の革新においても重要なポイントとなる。

本稿では、半固形製剤の製造技術の主要なポイントと製造プロセスについて、一緒に学んでいきたい。

目次
はじめに
製剤設計と原料選定
製造プロセスと製造装置
クリーム剤の製法
ゲル剤の製法
ゲルクリーム剤の製法
技術的な課題と最新動向
あとがき

製剤設計と原料選定

クリーム剤やゲルクリーム剤のような半固形製剤は、油相と水相の二相を適切な乳化剤や増粘剤、保湿剤を用いて安定なエマルション(乳液)に調製する必要がある。原薬(有効成分)はその原薬特性に合わせて、水に溶けにくい原薬は油相に、水に溶けやすい原薬は水相に溶かすのが一般的な製造方法である。

  • 油相と水相のバランス
    • 油相と水相の成分間の相互作用や界面活性剤の選定は、製品の均一性や安定性、そして使用感に大きく影響する
  • 増粘剤・ゲル化剤
    • カルボマー(アクリル酸を主成分とするポリマー)やキサンタンガムなどの増粘剤やゲル化剤は、テクスチャーや、やや弾力のある使用感を実現するために用いられる

これらの製剤設計の段階では、目的とする製品の外観、流動性、皮膚への付着性や浸透性などの重要品質特性(Critical Quality Attributes; CQA)を十分に検討し、最適な処方設計を行う。


製造プロセスと製造装置

クリーム剤やゲルクリーム剤のような半固形製剤の製造プロセスは大きく分けて、混合・乳化、均質化、そして充填の各工程で構成される。

  • 混合・乳化工程
    • 高剪断ミキサーやホモジナイザーが一般的に採用され、油相と水相を均一に混合して細かな液滴に乳化させる
    • 半固形製剤は温度によって粘度や相互作用が大きく変化するため、加熱下での乳化や室温または低温下での処理を状況に応じて選択する
    • このプロセスでは、全体的に均一な温度管理が重要となる
  • 均質化工程
    • 製品の微細な構造を得るために、高剪断ミキサーやホモジナイザーなどの均質化が可能な製造装置が使用され、液滴サイズの均一化や相分離の防止が図られる
    • これにより、長期安定性が向上し、塗布時のテクスチャーや外観が一定に保たれる
  • 充填工程
    • 得られた半固形剤は、充填や包装工程に移行する
    • 充填装置は製剤の粘性に適合したものである必要がある
    • 無菌充填が求められる製剤なのでクリーンルーム内での工程管理が実施される

現代の生産ラインでは、これらの工程を連続またはバッチプロセスで実施し、プロセス分析技術(PAT)を導入したリアルタイムモニタリングにより、製品の再現性や品質のばらつきを管理する取り組みも進んでいるようだ。


クリーム剤の製法

私がバイエル薬品(株)に入社したての頃、先輩から最初に教わったのはクリーム剤の製造方法であった。毎日のように製造条件や処方の異なるクリーム剤(ほとんどプラセボ)を作っていた経験がある。

私が愛用する「ニベアクリーム」(スキンケア製品)は優れたクリーム剤であるが、材料とホモジナイザー(乳化機)さえあれば自分で調製できる自信がある。

尚、「ニベアクリーム」は、特に保湿力に優れたクリームとして知られている。ドイツのバイヤスドルフ社が開発し、日本では花王が販売している。このクリームは、肌を乾燥から守り、柔らかく保つために設計されており、顔や体の保湿ケアに幅広く使用されている。成分には、ミネラルオイルやワセリン、グリセリンなどが含まれており、肌に潤いを与えつつ、外的刺激から保護する役割を果たしている。

私が入社した当時は、クリーム剤は日本薬局方に収載されていない時代であった。軟膏剤(ointments)が収載されていたが、処方も製法もクリーム剤とは全く別物であった。

現在の日本薬局方/製剤総則によると、クリーム剤は、皮膚に塗布する、水中油型O/W)又は油中水型W/O)に乳化した半固形の製剤であると記載されている。

油中水型(W/O)に乳化した親油性のクリーム剤については「油性クリーム剤」と称することができる。使用感の良いのは水中油型(O/W)の方である。

クリーム剤を製造するには、通例、ワセリン、高級アルコールなどをそのまま、又は乳化剤などの添加剤を加えて加温溶解して油相とする。別途、精製水をそのまま、又は乳化剤などの添加剤を加えて加温して水相とする。

原薬(有効成分)の溶解特性に応じて、いずれかの相に有効成分を加えて溶解させた後、適切な温度で油相及び水相を合わせて全体が均質になるまでホモジナイザーなどで攪拌・乳化した後、減圧下で攪拌しながら室温になるまで冷却する。私の経験では、有効成分は油相に溶解させることが多いように思う。

クリーム剤を製造していた日々を思い起こすと、クリーム剤の品質特性に影響を及ぼす重要プロセスパラメータ(CPP)は、次のようなものであった。

  • 乳化温度(乳化時の油相と水相の温度調整がとても重要)
  • ホモジナイザーの回転速度
  • ホモジナイザーの稼働時間(乳化時間
  • ホモジナイザーの位置(ベッセル底からの距離)
  • ホモジナイザーの天板の位置
  • 乳化後の冷却速度
  • 脱気のための減圧度
  • ベッセルの底の形状
  • ベッセルとホモジナイザーの大きさのバランス
  • バッチサイズ(仕込み量)

上記以外にも影響因子があったかも知れないが、上記のようなパラメータを考慮するだけで十分に目的の品質特性を有するクリーム剤を製造することができるはずである。


ゲル剤の製法

クリーム剤が日本薬局方に収載されていない時代にあって、ゲル剤は世間的にはほとんど知られていなかった。私が特許出願して初めて特許登録されたのが、ゲル剤に関する特許であった。

現在の日本薬局方/製剤総則によると、ゲル剤は皮膚に塗布するゲル状の製剤であると記載されている。ゲル剤には、水性ゲル剤及び油性ゲル剤がある。

水性ゲル剤を製造するには、通例、有効成分に高分子化合物、そのほかの添加剤及び精製水を加えて溶解又は懸濁させ、加温及び冷却、又はゲル化剤を加えることにより架橋させる。

一方、油性ゲル剤を製造するには、通例、有効成分にグリコール類、高級アルコールなどの液状の油性基剤及びそのほかの添加剤を加えて混和する。

ゲル剤は、クリーム剤に比べると製造しやすいように思う。ゲル剤の品質特性に影響を及ぼす重要プロセスパラメータ(CPP)もクリーム剤に比べると少なく、どちらかと言えば重要物質特性(CMA)の方が重要であったように記憶している。

記憶に残っているCPPは、中和時のpHぐらいである。CMAとしては次のようなものがある。

  • 高分子化合物の種類
  • 高分子化合物の濃度
  • ゲル化剤(中和剤)の種類
  • ゲル化剤(中和剤)の濃度

ゲル剤は、クリーム剤よりも熱に対して安定、すなわち日本の夏場でも分離するようなことがなく、エタノールなどの揮発成分が入っている場合には使用感(清涼感?)も良いというメリットがある。私が初めて特許取得をしたのは、実は抗真菌剤のゲル剤であった。

欠点と言えば、高分子化合物の濃度が高いゲル剤では、使用後に高分子の「カス」のようなものが皮膚に残ることぐらいだろうか。それもゲル化剤の添加量を極力少なくすれば支障を生じる程ではない。ゲル剤は、皮膚に塗布すると液状になって皮膚に浸透していくので外用剤としては優れていると思う。

現在、化粧品分野ではクリーム剤よりもゲル剤(化粧品分野では「ジェル」と呼ぶらしい)が多いのではないだろうか。


ゲルクリーム剤の製法

ゲルクリーム剤をインターネットで検索するとほとんど化粧品がヒットする。ゲルクリーム剤というのは、クリーム剤とゲル剤の良い点を併せ持つ優れた剤形である。

私がゲルクリーム剤を水虫薬(抗真菌剤)の開発に利用しようとしていた頃は、化粧品にはゲル剤(ジェル剤)という名前すらなかった時代であるから、私自身が年老いてしまったなあと思ってしまう。それはさておき、ゲルクリーム剤の製造方法は、基本的にはクリーム剤とゲル剤の製造方法と同じである。

ゲルを形成する高分子化合物は、クリーム剤の水相に溶解させて、ゲル化剤(中和剤)は冷却してクリームが形成された後に添加して攪拌する。水中油型(O/W)のクリームの水相部分がゲルとなっているイメージである。

したがって、通常のクリーム剤よりも熱に強いし、クリームの有する皮膚浸透性もあるので最高の品質が期待できる。現在、ゲルクリーム剤が化粧品に多く採用されている理由が容易に納得できるはずである。


技術的な課題と最新動向

半固形製剤の製造では、以下ような点が技術的な課題となる。

  • 均一性の確保
    • 製剤中の微小な液滴や分散粒子のサイズ分布が製品の使用感や薬効に影響するため、高精度な均質化が求められる
    • 適切な混合条件や先進装置を用いることで、これらの微細構造を再現性良く得る技術が確立されている
  • 物性管理
    • 製剤の粘度、弾性、流動性、さらには皮膚への浸透性などは、長期保存時の変化や環境条件(温度・湿度)に大きく影響を受ける
    • これらの物性を安定させるため、処方設計の段階から物理化学的な評価が行われ、製造工程条件に合わせた最適化が実施される
  • 連続製造への移行
    • 近年は連続製造技術が注目され、プロセスの自動化および制御技術と統合されることが多い
    • 商用生産に向け、スケールアップ時の品質のばらつきを低減し、効率的な生産システムを構築する必要がある

これらの取り組みは、医薬品業界や化粧品業界の両業界で継続的に研究・改善され、最新の製造技術が次世代の半固形製剤の開発や製造に貢献している。


あとがき

製薬企業は、独自のレシピと技術を用いて、多様な種類のクリームやゲルの製造ラインを確立している。例えば、医薬品向けの局所治療用クリームや化粧品向けの保湿効果の高い美容用ゲル(ジェル)など、ターゲットとする効果に応じた最適な物理的・化学的物性が目標値として設定されている。

また、原料の調達、混合、均質化、充填まで一貫した製造プロセスの中で、最新のオンライン品質管理システム(PAT)が採用されることで、製品の一貫性と安全性が保証されている。

今後、より洗練された製造装置や自動化技術、そして連続製造システムの導入により、生産効率や品質管理がさらに向上し、新たな半固形製剤の開発が期待される。

また、ナノテクノロジーの応用で、成分の浸透性や吸収性を高めた次世代製剤の開発も進むと見られている。既に一部は実用化され、製品として市販もされている。

このように、クリームやゲルなどの半固形製剤は、原料の選定、精密な混合・乳化・均質化工程、そして充填工程といった各段階で高度な技術が要求される。これらの製剤技術や製造技術によって、使用感や薬効、安全性など、製品の総合的な性能が実現されている。さらには、連続製造やプロセス自動化の導入は、今後の製造技術の革新においても重要なポイントとなるに違いない。