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基礎知識 製剤技術

超臨界流体技術と併用すると効果的な製剤技術とは?

はじめに

超臨界流体(SCF)技術は、高い溶解性制御や粒子設計を実現できる先端的なプロセスである。そこで注目したいのが、SCFと他の製剤技術を組み合わせることによる相乗効果である。

本稿では、SCF技術と併用することで得られる主な製剤アプローチを取り上げたいと思う。

目次
はじめに
粒子設計・微粒化技術
固体分散体
包接化合物/包摂複合体
ナノ粒子/ナノクリスタル
リポソーム/ナノミセル化システム
あとがき

粒子設計・微粒化技術

粒子設計・微粒化技術(Particle Engineering)、つまり粒子のサイズや形状を制御する技術は、溶解性やバイオアベイラビリティ(BA)を向上させる上で重要である。

SCFを用いることで、従来のミクロメートル領域からナノ領域への均一な微粒化が可能になり、薬物放出挙動の精密なコントロールが実現できる。特に、以下のような製剤技術がSCF技術を利用することで達成できる。

  • 超臨界CO₂アシスト乾燥(scCO₂ドライイング)
    • 例)ポリマー製ナノキャリアの作製
  • 有機溶媒に代えて高電圧電界でSCFを噴霧すると超微粒子化や均一なコーティングに有効
  • SCF中に低温プラズマを発生させ、表面改質や架橋反応を同時に達成する
    • ポーラス材料の親水/疎水化の制御
    • バイオマテリアル表面の機能化
  • マイクロリアクター+SCFで連続的に微粒子を形成させ、さらにPATと組み合わせてリアルタイムでの最適化を達成する

固体分散体

固体分散体(Solid Dispersion)は、難溶性薬物を高溶解性マトリックスに分散させる製剤技術である。SCFを加えることで、低温プロセスでの製造が可能になり、熱感受性成分の分解を防ぎつつ均一な分散構造を得られるようになる。例えば、以下のような製剤技術がSCF技術を利用することで達成できる。

  • 溶融法・スプレードライ法
  • 超臨界流体押出法(SCF-押出法)
  • SCF乾燥で一次脱溶媒→凍結・真空乾燥で二次乾燥することで、アモルファス(非晶質)構造維持と残留溶媒ゼロを両立

包接化合物/包摂複合体

シクロデキストリン(CyD)やポリマーなどのホスト分子に薬物のようなゲスト分子を包接化させると、ゲスト分子の安定性や溶解性が向上する。特に、高圧下のSCFで微細な包接体を形成すれば、粉体流動性やカプセル化(包摂化)効率を大幅に改善することができる。

  • SC-CO₂による乾燥プロセス
  • 高圧インクルージョン(包摂化)

ナノ粒子/ナノクリスタル

ナノ粒子化は溶解速度を飛躍的に向上させる手法である。SCFを利用すると可塑化や溶解性向上効果が高まり、ナノクリスタル製造の歩留まりと再現性が格段に高まることが知られている。

技術原理SCF併用の利点
高圧噴霧乾燥微滴化→乾燥粒子の凝集を抑え、均一性UP
超臨界フィルミング前駆体溶解→再結晶結晶形制御が容易で、望ましい多形を選択可能

リポソーム/ナノミセル化システム

脂質二重層や界面活性剤で形成する脂質ナノ粒子は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアとして有効である。高圧SCFでは溶媒を高速に除去しつつ微細なリポソーム粒子や脂質ナノ粒子を作り、封入効率や粒径分布の均一化を実現する。

  • 超臨界リポソーム形成技術
  • SCFアシストミセル調製

あとがき

超臨界流体(SCF)技術単独でも強力な製剤技術になり得るが、従来からの利用可能な多彩な製剤技術と組み合わせることで、溶解性、安定性、薬物動態を劇的に改善できる可能性が飛躍的に高まる。

将来は、プロセスインテグレーションや連続製造への展開が進み、さらに高スループットなSCFベースの製剤技術プラットフォームが確立されると期待される。SCFを活かした次世代製剤技術の開発に向け、最適な組み合わせを探求するのも楽しいかも知れない。

例えば、超臨界プラズマで表面を活性化したナノ粒子+酵素固定化キャリアや、SCF-エレクトロスプレーで作った均一微粒子+連続フロー反応器によるリアルタイム結晶制御などのようなSCFと併用できる「もう一歩先」の技術アイデアの創造を若くて優秀な製剤技術研究者に託したい。

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