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DDS 基礎知識 製剤技術

超臨界流体を利用する製剤技術に超音波やマイクロ波を併用した場合の相乗効果

はじめに

超臨界流体を利用した技術は、医薬品の製剤開発の現場においても微粒子化や結晶形制御、難溶性薬物の溶解性向上などに応用される機会が増えてきたようである。

さらに一歩進んで超音波やマイクロ波と組み合わせることで、反応速度・微粒子制御・結晶多形制御など多面的に性能が飛躍しま

このSCF技術に超音波マイクロ波を組み合わせると、一体どんなシナジー効果が生まれるのであろうか?

本稿では、そのシナジー効果の仕組み(メカニズム)や応用例、将来展望について取り上げたいと思う。

目次
はじめに
超臨界流体技術の概要
超音波(音波振動)の効果
マイクロ波(電磁波)の誘電加熱効果
相乗効果のメカニズム
代表的な応用事例:
リポソーム形成の高速化
ナノ粒子調製によるバイオアベイラビリティ向上
シクロデキストリン包摂体の高効率化
SCF+超音波+マイクロ波のトリプルシステム
実用化に向けた技術的ポイント
将来展望
あとがき

超臨界流体技術の概要

まずは、超臨界流体(Supercritical Fluid;SCF)技術のおさらいをしておこう。

SCFとは、常温常圧では気体、あるいは液体として振る舞うものを、臨界点(臨界温度・臨界圧力)以上に加圧・加熱すると超臨界状態となり、気体の拡散性×液体の溶解性を兼ね備えるメディア(溶媒)に変身した状態を指す。

つまり、圧力・温度を臨界点以上に制御すると、ガスの拡散性×液体の溶解性を同時に発揮するようになる。

特に、CO₂超臨界流体(scCO₂)は残留溶媒ゼロかつ低粘度で、マス・トランスファー効率が高い。そのため、scCO₂は医薬品の製剤開発でも利用されることが多い。

例えば、以下のような応用例が知られている。

  • 微粒子化(RESS, SAS)
    • 均一なナノ/ミクロン粒子を生成
  • 結晶形制御
    • 高エネルギー結晶やアモルファスの作製
  • デリバリーキャリアの充填
    • 多孔質キャリアへの薬物インクルージョン
    • シクロデキストリン(CyD)の薬物包摂化

超音波(音波振動)の効果

  • キャビテーション効果
    • 周波数20 kHz~1 MHzで液相中に微小気泡を生成・崩壊させ、局所的に高温高圧(ホットスポット)を発生
    • 境界層や毛細孔を破壊し、粉体内部へのSCF浸透を促進
    • 収縮破裂時の強力な剪断力が質料の分散性をUP
  • アコースティックストリーミング
    • マイクロレベルの流れを作り、SCFとのマス・トランスファーを促進

マイクロ波(電磁波)の誘電加熱効果

  • 選択的加熱
    • 2.45 GHz帯のマイクロ波が水分や極性溶媒(共溶媒)を選択的に加熱
    • 分子振動を利用し“分子レベル”で高温部位を瞬時生成
    • バルク温度は一定に保ちながら、CyD–薬物系の局所温度だけ上昇させ包摂平衡を効率的に前進
  • リアルタイム温度制御
    • ラジオ波やマイクロ波反応器と直結し、速やかな昇温/冷却が可能

相乗効果のメカニズム

SCFに超音波やマイクロ波を組み合わせると、以下のような相乗効果があることが知れている。

  • マス・トランスファーを二重活性化
    • 超音波で境界層を撹乱し、SCFの侵入経路を確保
    • マイクロ波で局所的に溶解度を向上させ、包摂反応を加速
  • 過飽和状態の制御
    • マイクロ波誘起局所加熱で過飽和度を上昇させ、核生成を促進させる
    • 超音波キャビテーションが粒子成長速度を制御し、粒径分布を狭める
  • 急速核形成と成長制御
    • マイクロ波が核生成を促し、超音波キャビテーションが成長を細かく刻む
  • 結晶多形・非晶質制御
    • キャビテーションの瞬間的冷却と、マイクロ波の選択加熱を組み合わせ、非晶質化特定結晶形を自在に誘起させる
  • 局所熱・せん断の同時作用
    • 瞬間的な温度ピーク+強力なせん断で均一粒子を一気に形成
  • 残留溶媒の最小化
    • 熱とせん断のダブル攻撃で、SCFによる洗浄効率が上昇
項目超音波 単独マイクロ波 単独シナジー効果
粒子サイズ平均径10%減少均一性向上20〜30%の縮小+狭い粒度分布
マス・トランスファー2倍増1.5倍増3〜4倍向上→析出過程のコントロール性大幅UP
結晶形一部アモルファス高エネルギー結晶生成アモルファスで溶解性、結晶で安定性を同時実現
プロセス時間同等30〜50%短縮60%以上のトータル削減

代表的な応用事例

リポソーム形成の高速化

  • SC-RPE法に超音波を併用し、界面拡散を促進
  • マイクロ波を合わせることで、脂質膜形成が数分で完了し、50–100 nm台の均一リポソームを一段で得られる

ナノ粒子調製によるバイオアベイラビリティ向上

  • RESS法に超音波キャビテーションを追加
    • ノズル噴射後の核生成直後にキャビテーションを掛け、粒径CV(変動係数)を10%以下に改善
  • 超臨界流体アンチソルベント(SAS)+超音波
    • ある難溶性抗がん剤を対象としたケースでは、通常のSAS粒子径が平均5µm→超音波併用で3µmに縮小
    • 生体内溶出速度が30%向上し、経口投与効率が大幅アップ

シクロデキストリン包摂体の高効率化

  • 超臨界CO₂+マイクロ波で局所的にCyD内腔を加熱し、包摂平衡をダイレクトに前進
  • 超音波の併用でCyD粉末内部までSCFを瞬間的に浸透させ、包摂時間を従来比1/5に短縮

SCF+超音波+マイクロ波のトリプルシステム

複合デリバリーキャリア(ナノポアシリカ)への薬物包摂化時、マイクロ波でキャリア表面を活性化+超音波で迅速浸透させると、50nmレベルの均一被覆が可能になったとの報告がある。


実用化に向けた技術的ポイント

項目ポイント
リアクターデザイン耐高圧・耐マイクロ波窓付きステンレスチャンバー
周波数・出力制御超音波:20–40 kHz、
マイクロ波:200–500 W(パルス照射推奨)
温度・圧力モニタリアルタイムセンサー+
PID制御で過冷却・キャビテーション回避
スケールアップ超音波/マイクロ波源の出力分布制御が課題、
インラインプロセス分析(PAT)を導入、
リアルタイムモニタで均一化
共溶媒添加微量エタノール/水の微調整で極性チューニング
装置相性高圧容器内への電磁導入や音響伝播損失が課題;
高耐圧マイクロ波透過ウィンドウ、
フェーズアレイ超音波プローブ
危険対策過圧防止弁、爆裂防止シールド、ラボ外排気
複合プラント投資額モジュール化設計+マルチAPI共用ライン

将来展望

  • 連続流マイクロリアクター化
    • 小型マイクロチャネルで一貫してSCF+超音波/マイクロ波を照射し、バッチ間ムラを完全排除
    • 超音波・マイクロ波パラメータをオンライン制御し、24/7連続生産を実現
  • AI駆動リアルタイム最適化
    • 反応パラメータをセンシングデータで逐次学習し、自動で最適圧力・加熱条件を調整
    • マルチフィジックスシミュレーション×機械学習で、最適プロセス条件を自動探索
  • マルチフィールドハイブリッドプロセス
    • さらにプラズマやパルス電界を組み込むことで、秒オーダーで完結する超高速包摂/合成を実現
  • グリーンケミカルズ
    • 大気圧マイクロ波リアクターへの応用で、SCFプロセスの省エネ性をさらに高める
  • 院内ミニプラントへの展開
    • 病院やクリニック向けに小型SCF装置+超音波/マイクロ波ユニットを開発し、個別化医療のための薬剤調製を実現

あとがき

超臨界流体(SCF)は、単独でも十分魅力的な包摂・粒子合成技術であるが、さらに一歩進んで超音波マイクロ波と組み合わせることで、反応速度の高速化微粒子の粒度制御結晶多形制御プロセス安定性など多面的に性能が同時に、かつ、飛躍的に向上する。

次世代DDSのためのナノマテリアル製造には、こうしたマルチフィールドなアプローチが必要不可欠であるのかも知れない。

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